第3話 夢の終わり
それは虹色に輝く円盤のようなものだった。
「伯爵!これ何!すごい奇麗!」
「これは装置だよ。この屋敷をこの時間軸に召喚した装置だ」
「へえ~、なんかすごいモノなんだね」
当時の私では正しくそのモノに対する判断ができなかった。
伯爵はそんな私を微笑ましく見ていた気がする。
「どうしてこれを僕に?」
「うむ。恐らくだが君に見せる必要があると考えてね」
「???」
「そして、これを君に」
そう言って伯爵はペンダントのようなものをくれた。
何かの記号か絵のようなものがぶら下がっている。
「ありがとう!でも、なんでこれくれるの?」
「よいではないか。そういう時は子供らしく素直に受け取るものだよ」
謎は深まるばかりだった。どうして子供の私にあのモノをみせたのか。
なぜペンダントをくれたのか。
そして伯爵は手元の時計を確認した。
「ツトム君。君との交流は実に素晴らしいものだった」
「?どうしたの急に」
「そろそろ別れの時間だ。さ、子供は帰る時間だぞ」
「まだお昼だよ~、遊ぼうよ~」
「この時間軸での活動は終わった。もうここに居れないのだよ」
「え~。どっか行っちゃうの?」
「まあそんなところだ」
まだ遊んでいたかったが、伯爵に背中を押され屋敷の玄関付近まで連れられていた。
「うーん。わかったよ。じゃあね、楽しかったよ伯爵!」
「ああ。私も有意義な時間だったと思う。また会えるさ、ツトム君」
「ホント?また会おうね。絶対だよ?」
「約束しよう。私の名に懸けてな」
そのとき、ふと疑問が芽生えた。
「そういえば伯爵って、名前なんていうの?伯爵は何をしてる人なの?」
最初にあったときから「伯爵」という名に疑問を持っていた。
帰宅後、祖父母に聞いてみたところヨーロッパの偉い人の名称だと聞いた。
また伯爵が何をしている人なのか、交流中は聞くことを忘れていたので聞くことにした。
無垢な子の純粋な疑問に対し、伯爵は誠実に答えてくれた。
「私はある時はイングランドでシェイクスピアの一人として詩を書いていた。
またある時はネット上でタイターとして情報を集めていた。
だから私は時代によって、与えられた任務によって名前を変えているのだよ」
「名前がいっぱいあるの?」
「そうだ。だが君にはその中でもお気に入りの名前で憶えてほしい。
私は伯爵、サンジェルマン伯爵だ」
「わかった。じゃあまた会おうねサンジェルマン伯爵!」
そういって屋敷を出て、山を下り帰路についていた時。
山が急に虹色に光り出した。
それから1時間がたったころ、スーツを着た男たちが泊まっている祖父母の家にやってきた。
なにかを探していたみたいだった。
しかし見つけられないとわかるとスーツの男たちは急にスプレーをまいた。
「あなたがたは今日見たこと、起こったことを忘れます。あなたがたはいつもどおりの生活をしていた。」
その言葉を残して家を後にした。
子供の私は何故か記憶が残っており、みんなの認識がゆがめられたと大人になって気が付いた。
あの出来事から何年たっただろう。
私はノーベル物理学賞を受賞するほどの研究者になった。
あの日見たもの、彼にもう一度会いたいために必死になって勉強した。
彼に追いつくため、もう一度会うためにタイムリープを題材にした研究を続けてきた。
彼に追いつくため、もう一度会うためにタイムリープを題材にした研究を続けてきた。
その結果、タイムリープに関する謎をいくつか解いたのだ。
だが未だに追いつくことはできていない。あと何年かかるのだろうか。
授賞式のあと、上品な紳士に手紙をもらった。
手紙には「門は開かれている。〇月〇日にロンドンに。」と書かれていた。
手紙の最後に昔もらったペンダントに似た記号があった。
「なんだ、これは。どういうことだ」
疑問が浮かび不安な気持ちになったが、学者の性か好奇心が勝った。
手紙の指定通り、ロンドンに向かった。
ロンドンにつくと、ツトム様と日本語で書かれたスーツの老人がいた。
「お待ちしておりました。ツトム様」
「え、ええ、よろしくお願いいたします。」
動揺が隠せなかった。
そして老人に導かれた私はロッジの前にいた。
「これは・・・」
門には紋章が刻まれており、ペンダントのものだった。
ドアは自然と開いた。
中に入り、いくつかの扉を開けた。
「やあ。待っていたよツトム君」
何も変わらない。老いた印象もなく毅然とした姿で立っていた。
「やっと、やっと会えた。伯爵」
「ペンダントは君を守り導いてくれた。君があの時素直にもらってくれたからかな」
夢のような日々だった子供の時の出来事。
夢は終わり現実に帰ったが、私は夢に魅せられていた。
夢を終わりにさせないためにつらい現実に耐えてきた。
ああ、また夢が見れるのか。
楽しい日々が始まる予感がした。
ひと夏の夢 赫彩(あかいろ) @akairo3
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