第2話 夢の中で

その人は田舎の山奥という環境において、かなり風変わりな恰好をしていた。

その人は私の視線に気付き、こちらを見た。


私は何故か咄嗟に動くことができなかった。

恐怖で逃げようとしたのか、興味本位で近づこうとしたのか、

今となっては覚えていないが、足は動かなかった。


男は私に


「どうしたのかな?少年」


と易しくたずねた。


「おじさん、誰?どうしてこんな山の中にいるの?」

「おじさんか。ふふっ、まあいい。私は休暇でここにいるのだよ少年」

「?・・・で、誰なの?おじさん」

「私は、そうだな。伯爵と呼ぶといい」

「はくしゃく?変な名前だね、僕はツトムだよ、よろしく!」


「伯爵」と自称した男は山の中であるにもかかわらず、

鮮やかな色彩、華やかな刺繍のコートを着ていた。

今考えると確かに「伯爵」という名前負けしない服装と身だしなみだった。


山中での邂逅を遂げた僕と伯爵は、あれから連日会うようになった。

伯爵曰く「現地人との貴重な交流だ」そうだ。


6日目

私はまた伯爵に会いに山へと向かった。

その日の伯爵はどこか浮かない顔をしていた。


「どうしたの伯爵?具合悪いの?」

「いや、少し考え事をね。そうだ今日は我が家に招待しよう」

「家?でもここ山だよ?そういえば伯爵、どこに住んでるの?」

「まあついてきたまえ。きっと楽しい思い出になるだろう」


その言葉につられ僕は伯爵の家に向かった。


「ここだ。我が家へようこそ、ツトム君」

「うわぁ~、スゴイデカい!」


山の中にあった伯爵の家は当然のように屋敷だった。

もはや宮殿?城?のような外観で、あれは今でも忘れることのできない思い出だ。


「おじゃましまーす!」

「どうぞ。使用人!客人にもてなしを」

チリーン・・・


玄関近くにあった小さな鐘を鳴らすと屋敷の中から使用人達が出てきた。


「おかえりなさいませ。ご主人様。お客人には紅茶と菓子でよろしいですかな?」

「ああ、それを頼む」

「かしこまりました」


あれよあれよという間に食事をする長机が置かれた間に通された。

使用人たちは既に菓子と紅茶を長机に配置し部屋の隅に立っていた。


「うわぁ~、いいのこれ?」

「構わないよ、どうぞお食べなさい」

「いただきまーす!」


食べたことのないお菓子、子供の私でもわかる香り高い紅茶、そのどれもが初体験に満ちていた。


「伯爵ってすごい人なんだね!」

「もちろん。私はこの屋敷の主人。伯爵であるからな。」


菓子や紅茶を一通り味わってから気が付いた


「あれ?伯爵は食べないの?おいしいよ、このお菓子。」

「ああ、私はこれで十分なのだ」


そう言って伯爵は右手で持っているカップを掲げた。


「ふーん。美味しかったです。ごちそうさまでした!」

「口にあったようでなによりだ」


部屋の隅に立つ使用人に礼をして部屋を後にした。


「少し見せたいものがある」

「見せたいもの?」


部屋を出た後、伯爵は僕にあるものを見せてくれた。

それは屋敷の地下にあり、私はそこで虹を見た。

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