第5話 氷壁の魔法使い


「カウト君! 逃げるように言ったのに!!」


 ヒナエさんは精神集中。


「こぉお……」


 そこからスキルを発動させた。


爆飛走ジェットラン!」


 地面が爆ぜると凄まじい速度で移動する。


「たぁああッ!!」


 彼女の斬撃がメテオナルドラゴンの脛を捉える。

 しかし、バィイインと、まるで硬いゴムのように弾かれてしまった。


「クッ! 斬れない!」


 うーーむ。

 子供のドラゴンは倒せても大人は無理みたいだな。

 それにしても、傷一つつかないってのは硬すぎでしょ。


 ドラゴンは大きな足で彼女を踏み潰そうとする。


爆飛走ジェットラン!」


 再び高速移動のスキル発動。足の攻撃を避けて物陰に隠れる。

 彼女を見失ったドラゴンは、僕に照準を合わせた。


 あ、ついに僕に向けて攻撃しますか?


 それは一瞬の出来事だった。

 メテオナルドラゴンのファイヤーブレスが僕に向けられて発射される。


「おお。来た来た♡」


 ヒナエさんは即座に爆飛走ジェットランを発動。

 ガバッと僕の体を抱え込んだ。


「カウト君!!」


「え?」


 僕を助けるために来たのか。

 さっきの剣撃で敵の強さはわかっただろうに。

 この場合は1人で逃げるのが最適解なんだよな。

 敵が強すぎる時は、2人とも死んでしまう可能性の方が高いんだ。

 だから、命を挺して僕を助けようなんてのは悪手。

 お人好しなんだなぁ。


「あなた1人で逃げてくださいよ」


「バカ! そんなこと、できるわけがないでしょ!」


 しかし、彼女の爆走は止まる。

 移動距離が決まっているのだろう、次の準備が必要なようだ。


「ダメ! 間に合わない!」


 彼女は炎に背を向けた。

 と同時。僕に炎が当たらないように、両腕で僕の頭を覆い尽くす。


 いやいや。そんな防御じゃ無理無理。

 2人とも焼け死んじゃうって。


「カウトくん!!」


 言わんこっちゃない。

 だから1人で逃げるべきなんだよな。


 僕たちはファイヤーブレスに包まれた。


 2人揃って即死です。

 

 ジ・エンド。





 まぁ、


 ……僕が力を使わなかったらだけどね。


「……………あ、あれ? カ、カウト君、無事?」


「お陰様で」


「あ、熱くない……。なぜ?」


 彼女は振り向くと目を見張る。


「え!? 氷!? どういうこと??」


「僕が張ったんです」


「君が? 君……、魔法を使えたの?」


「少しね」


「す、少しって……。ファイヤーブレスを防ぐ程の 氷大防御アイスギガードなんてすごいわよ!」


「ああ、これは単なる 氷壁アイスウォールですよ」


氷壁アイスウォール? 初歩の氷魔法じゃない!?」


「そう。魔法使いなら誰でも使える簡単な氷魔法」


「で、でも……。ファイヤーブレスを防いでいるわよ?」


「僕の壁は分厚いんだ」


「分厚い?」


「そ。通常の1万倍」


「え!?」


氷壁アイスウォールを1万枚重ねて作ることができる。まぁ、いわば僕の特技だね」


「しょ、初歩魔法の重ねがけ……。それを1万枚も……。聞いたこともないわ。すごすぎる……」


「簡単だよ」


「簡単じゃない!」


 ドラゴンは再びファイヤーブレスを吐く。

 ターゲットはスキンヘッドのライオッグ。


「うぁああああッ!!」


 彼は死を覚悟して絶叫した。

 半身の火傷もあり、とても逃げれる状況ではないのだ。


 やれやれ。


「僕は雑用係だけどさ。こういうの範囲外だと思うんだよねぇ」


 僕は大きな 氷壁アイスウォールを作って、ドラゴンの炎を防ぐ。


「な、なんだこの壁は?」


 ライオッグは理解が追いつかないようだ。


「戦うのって君たちの仕事だろ? 僕は防具磨きに専念したわけだしさ。こういうの追加料金貰えるのかな? 時間外手当とかさ」


 ドラゴンは氷の壁を壊そうと躍起になってブレスを吐く。


「無理無理。僕はいくらでも 氷壁アイスウォールを出せるんだからな」


 ヒナエさんはプルプルと震えた。


「速い! し、しかも……。無詠唱で出してるの? あ、あんなにたくさんの氷魔法を!?」


 ああ、そんなことか。


「脳内で完了してるよ。知らなかった? 詠唱はさ。別に声に出さなくてもできるんだよね」


「そ、そんなこと……。聞いたこともないわよ!」


「簡単だよ」


「簡単じゃない!」


 ドラゴンは姫様が隠れている方向にもブレスを発射する。


「おっと、そうはいかない」


 直様、僕の 氷壁アイスウォールが炎を防いだ。

 姫様は死がよぎっていたのだろう。助かった安堵より恐怖の余韻で涙ぐんでいた。


「ひぃええええ……」


 全員を助けるのは容易だな。

 

 みんなは僕から目が離せないようだ。

 

 恥ずかしいから、あんまり注目してほしくないんだけどなぁ。


 ドラゴンは僕の魔法を恐れた。

 何度もブレスを吐いて 氷壁アイスウォールを破壊する。


「残念だったね。君と僕とでは相性が悪そうだ」


 僕はゆっくりと歩き出す。

 ドラゴンのブレスは僕に向かって発射されるが意味はない。

 全て、僕の 氷壁アイスウォールで防いでいるのだから。


 ほんの少し手をかざすだけで、一瞬にして分厚い氷の壁が出現する。

 それが破壊されても、直ぐにまた次の壁が現れる。

 躍起になったドラゴンは大きな尻尾で僕を吹っ飛ばそうとした。

 しかし、そんな攻撃でさえも、僕の 氷壁アイスウォールは完璧に防いだ。




「僕には、指一つ触れることはできない。永遠にな」




 さて、締めの大技といきましょうか。

 と、言っても特に名前はないんだよな。

  氷壁アイスウォールで対象を凍らせるだけなんだから。

 でも、せっかくこんなにも大きなモンスターを凍らせるんだからな。

 それらしい名前が欲しいか。


 その時。

 僕の脳裏には光る鍵盤がよぎった。

 ヒナエさんが引くピアノ姿である。


 優雅な旋律が流れる。


 うん。いいかも。

 カースト底辺層の僕だけどさ……。

 少しだけ、背伸びするか。






氷壁アイスウォール  前奏曲プレリュード






 その言葉と同時。

 巨大なメテオナルドラゴンは全身を凍らせて絶命した。


 うん。中々、カッコいい名前が付けれたな。

 これから敵を凍らせる時はこの名前にしよう。


「はい。時間外勤務終了です」


 その高さは30メートル以上はあるだろう。

 まるで氷のモニュメント。

 絶景だなぁ。


 みんなは、この光景をただ呆然と見つめていた。


「カ、カウト君が……。た、倒しちゃった……。こんなに強かったんだ……」





────


面白ければ☆の評価をお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る