第4話 モヒカンよ。君のことは明日には忘れている

 モヒカンを助けようとして手が止まる。


「おい、どうしたんだよ!? 早く助けてくれよ〜〜!」


 そういえば、こいつ、こんなことを言っていたな。


『俺は護衛の仕事、おめぇは雑用の仕事だからなぁ!! ギャハハ!! 与えられた職務以外に手を出すのはルール違反だぁあ!! ギャハハーー!!』


 そうか。

 つまりこれはルール違反だ。


 僕は手を引っ込めた。


「おい! 雑用ぉおお!! 早く引き上げてくれぇええ!!」


 と、手を伸ばす。


「僕は雑用が仕事だからな。与えられた職務以外に手を出すのはルール違反なんだ」


「にゃにぃいいい!? この薄情者ぉおおお!!」


 いや、薄情者って言われてもなぁ……。


「職務以外に手を出すことはルール違反なんだろ? 君が言ってたことじゃないか」


「うう……。そ、それはぁ……。こ、こんな時にルールを持ち出すのかよ! 助け合うのが仲間ってもんだろうがぁ! この薄情もんがぁああ!!」


 仲間ねぇ……。

 こいつ、こんなことも言っていたぞ。


『バーーカ! 寝言は寝て言えっつーーの! 無能のお前なんか仲間じゃねぇよ。ギャハハ! お前の命なんか、誰が守ってやるもんかよ! ひゃはっ!』


 うん。

 確かに言ってた。


「君は僕のことを無能扱いして仲間じゃないって言ってたぞ?」


「ギクゥウウウッ!! そ、そ、そんなこと、い、い、言ってたかなぁあ!?」


「うん。確実に言ってた」


「うう……。そ、それはぁ……」


「それに、君は声高々と宣言していたよ。『お前の命なんか誰が守ってやるもんかよ』ってね。そんな君が僕に命乞いをするのかい?」


「ぬぐぅうう……!」


「都合良すぎない?」


「ううう……。た、頼む助けてくれぇ……」


「ルールは君が提示したからね。僕はそのルールに従っているだけさ」


 と、踵を返す。


「待ってくれぇえええええッ!!」


 はぁ、やれやれ。

 今度はなんだ?


 振り返ると、彼はボロボロと涙を流していた。

 

「悪かったぁああ! 俺が悪かったよぉおお!! 謝る! 謝るから許してくれよぉおお!! このとおりだ! 助げでぐれよぉおおお!!」


 やれやれ。

 都合よく謝るんだなぁ。


「反省したのかい?」


「反省じまじだぁあああ!! ごれがらは心を入れがえるがらぁああ!! だずげでぐれーー!!」


 改心宣言ねぇ。

 今までの流れだとあんまり信用できないんだけどな。

 口だけならなんとでも言えるしな。

 でも、まぁいいか。ここまで泣いてるのもなんだか可哀想だ。

 許してやるか、


「んじゃあ掴まれ──」


 と、手を差し出そうとした瞬間である。



ドシィイイイン……!!


 

 メテオナルドラゴンの巨大な尻尾が馬車を踏み潰した。


「あちゃぁ……」


 馬車は破壊され地面に埋まる。

 モヒカンの姿はとても確認できそうにない。


 やれやれ。

 自分でおかしなルールを提示するからこんなことになるんだ。

 ルールさえなかったら、もっと早くに助けてやったのにさ。


「モヒカンよ、安らかに眠れ。正式な名前は知らんけど。改心はあの世でしてくれよな」


 さて、このドラゴンが厄介だな。

 S級ギルドのパーティーとはいえ、随分と苦戦をしているようだ。


 パーティーリーダーであるスキンヘッドのライオッグは半身が焼け爛れていた。


「ぐぬぅ……!」


 メテオナルドラゴンの吐くファイヤーブレスにやられたんだ。

 発射速度が早すぎて避けるの難しいのだろう。

 少しでも炎に触れれば大火傷だ。

 

 ライオッグは指揮をとる。


「こ、氷だ! 氷魔法で防御するんだ!!」


「「 わかりました!! 」」


 2人の魔法使いが前に出る。

 魔法の詠唱が始まった。


「「 暁の蒼天に銀の雲を掲げ、蒼然たる力の根源を呼び覚ませ。彼方の地より来訪する氷の精霊よ、我の命力と共に、その力を示せ! 」」


 ああ、随分と時間のかかることで。


「「  氷大防御アイスギガード!! 」」


 ふむ。氷のS級魔法だな。

 見た目はシンプルにカッコいい。フフフ。こういうのワクワクするんだ。


 2人の魔法使いは大きな氷の壁を出現させた。

 しかし、その壁は無情にもドラゴンの吐くファイヤーブレスの一撃で破壊される。


「無理です! 私たちの氷魔法では、とても攻撃を防げません!!」


 あらら。

 中々、敵さんが強いな。


 追い討ちをかけるように、小型の竜が5匹も現れた。


『クエェエエエエッ!!』


 その姿は赤く、まるで小さなメテオナルドラゴンである。

 と、いってもその体高は3メートルを超えている。並のモンスタークラスはあるだろう。


 あれは子供だな。

 おそらく、羽化したばかりで餌のために僕たちを襲っているんだ。


 行きは卵だったのかもな。帰る時に羽化したんだ。

 運が悪い所に出くわしたな。


「カウト君、逃げなさい!」


「あなたはどうするんです?」


「私は姫様を助ける!!」


 この状態でも任務ですか。

 大変な仕事だなぁ。


 ドラゴンの子供はB級モンスター程度の強さがあるだろう。

 1匹だけでも厄介だっていうのに。


「はぁーーッ!!」


 ズシャン! と、彼女の剣は子供のドラゴンをぶった斬った。


 へぇ。一撃で倒しちゃうんだ。

 流石は噂の剣士だ。いい腕だな。シンプルにカッコいい。


 しかし、子供がやられたことに激怒した親のドラゴンは、彼女に向かってファイヤーブレスを発射した。

 ヒナエさんは深く深呼吸。精神統一をしてから、


爆飛走ジェットラン!」


 彼女は凄まじい速さで動いてそれを躱す。

 おそらく高速移動のスキルだ。

 彼女の剣撃と合わさればかなり強力。こういうのもシンプルにカッコいいよね。

 確か、モヒカンが、彼女は次期ギルド長になる存在って言ってたな。

 この強さなら頷ける。


 でも、状況が悪いな。

 ヒナエさんは子供ドラゴンの攻撃を掻い潜り、姫様を抱いて物陰へと隠れた。


「姫様はここに隠れていてください」


「う、うむ……」


 ターゲットを見失ったメテオナルドラゴンは、傍観する僕をギロリと睨みつけた。


 ん、僕とやるつもりかな?

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