第2話 雑魚認定

 任務当日。


 S級ギルド、白銀の牙は護衛パーティーを組んだ。

 その一員に僕が混ざる。

 まぁ、雑用係としてだけどね。


 僕たちは王城の前に来ていた。

 鎧を纏った兵士たちに囲まれる少女が1人。

 僕たちの前へとやってくる。


 黄金色に輝く長髪。

 ホワイトサファイヤの如く煌めく肌。

 鋭い瞳は翡翠のように深緑だ。


 王都ロントモアーズの姫君。

 ラシュエザ・フォン・バーレンシュタイン。

 

 高貴なオーラが眩しい。

 美しい容姿は勿論のこと。

 シルクでできたミニのワンピースが高価すぎるんだ。

 金持ちって直ぐにわかるね。


 年は14歳と聞く。

 僕より1つ年下だ。


「あなたが書記官の甥ですの?」


 書記官とはリエルナさんのこと。僕の叔母だ。

 僕は叔母の伝手でこの仕事に参加している。


 姫様は僕をマジマジと見つめ、目を細めた。


「期待外れね」


「え?」


「リエルナの推しだから護衛に入れたけど、まるで弱そうじゃない」


 やれやれ。

 まぁ、か細い腕ですからね。


「どんな技を使うのよ?」


 技……。


「魔法を少々」


「魔法使いなの? だったら杖は?」


「基本は持ちませんね」


 あんな物は邪魔だよ。


 護衛パーティーのリーダー、スキンヘッドのライオッグが頭を下げる。


「姫様。こいつはただの雑魚。雑用係でございます」


「あらそう。雑魚なの。フフフ。では、くれぐれも、みんなの邪魔をしませんようにね」


 いやいや。

 随分な言われようだな。


 ライオッグが城の偉いさんとルートの確認をする。


 僕の目の前には大きな袋が置かれた。

 それを見ながらモヒカン頭の男が笑う。


「おい雑用。これは城から支給された食糧だ。お前の仕事だぞ。ヒャハ」


 そういえば、こいつの名前を知らないな……。

 まぁ、モヒカンでいっか。


 それにしてもデカイ袋だな。

 2メートルを超える城兵が運んできた物だ。

 それを165センチの僕が持つのか……。

 重さは優に100キロは超えているだろう。

 この筋肉の無い、か細い腕で持てるはずがないんだ。


「おい雑用。これを馬車に詰め込むのが、てめぇの仕事だぞぉ?」


 やれやれ。

 随分と楽しそうだな。

 大方、僕の苦労する姿が見たいのだろう。


「俺様は優しいからな。馬車の荷台を荷物の前まで持ってきてやったよ」


 モヒカンの担当は馬車の御者だ。

 優しさで持ってきたんじゃない。これは彼の仕事なんだ。


「さぁ、持ち上げろよぉ。この食糧を乗せるのはてめぇの仕事だかんなぁああ? ヒヒヒっ!」


「はぁ……」


「ため息ついても俺は手伝わねぇぜ! 俺は護衛の仕事、おめぇは雑用の仕事だからなぁ!! ギャハハ!! 与えられた職務以外に手を出すのはルール違反だぁあ!! ギャハハーー!!」


 やれやれ。

 ルール違反と来ましたか。

 まぁ、いいさ。


「君は、僕がモンスターに襲われた時に助けてくれるんだもんな。適材適所。持ちつ持たれつか」


「はぁ〜〜〜〜?? 何、寝言言ってんだぁあ? 俺がお前を助けるぅうう?」


「それがルールだろ?」


「バーーカ! 寝言は寝て言えっつーーの! 無能のお前なんか仲間じゃねぇよ。ギャハハ! お前の命なんか、誰が守ってやるもんかよ! ひゃはっ!」


 ヒナエさんが言ってた話とは随分と条件が違うな。


「さぁ、やれよぉ〜〜。持ち上げてみろよぉおお。これはお前の仕事だからなぁああ。俺は絶対に手伝わないからなぁあああ! クヒヒヒーー!」


 人が苦しむ姿を楽しみたいのか。

 いい趣味だな。


「あ、すっごい美人!」


「何!? どこだ!?」


 と、彼が遠くを見るもそこには何も無かった。


「てめぇ、美人なんていねぇじゃねぇか!! ってアレ!?」


 食糧を入れた大きな袋はそこになかった。


「おい雑用。あの袋はどこにいったんだよ?」


「もう積みましたよ」


「何!?」


 食糧を入れた大きな袋は、しっかりと馬車の荷台に積まれていた。


「い、いつの間に!?」


「ね? 積まれてるでしょ」


 モヒカンは袋に異常がないか触る。


「どうなってんだ? こんな重い袋、俺でも持てねぇのに……。冷たッ!」


 彼は目を凝らす。

 手についているのは霜だった。


「氷……? 雪でも降ったのか??」


 今は6月。

 そんなわけはないだろう。


 さぁて、雑用の仕事は終わった。

 あとは荷台でゆっくりしようかな。

 護衛の仕事は他の人がやるんだからさ。

 後は楽ちんだよね。


 護衛の任務は、姫を隣国のジルベスタルに無事に到着させること。

 期間は往復2週間。

 本来ならば、護衛は城兵だけで済む話。

 ところが、王城の専属占い師、オババ様の言葉で厳重になった。


「紅蓮の逆鱗に触れる時。王都に災いが降り掛かるであろう」


 意味がわからん。

 もう少し、噛み砕いて話してくれよ。


 しかし、王室はこの言葉で動いた。

 要するに、意味はよくわからんが、なんかヤバそう。ってことみたい。

 本来ならば姫の移動は延期なのだが、隣国にいる婚約者との面会のため、止む無しということになった。

 国同士の政治的策略はよくわからないが、危険な時期に移動するなんて愚かな行為だと思う。

 そんな時は、家でゆっくりと冒険小説でも読んでいるのが最高の過ごし方ではなかろうか。

 甘いお菓子と紅茶があったら至福だよね。


 そんなこんなで1週間が経った。

 道中。ゴブリンの群れやリザードマンに襲われたけれど、どれもC級以下のモンスターだ。

 S級ギルドの護衛パーティーにとっては大した敵ではない。

 僕は鼻歌を歌いながら気軽にバトルを鑑賞しているだけだった。


 無事、僕たちは隣国ジルベスタルへと入国できることとなった。

 姫様は婚約者と面会。

 3日ほど滞在して、帰ることとなる。


 今は帰国の真っ最中。


 順調だ。

 オババ様の言葉はなんだったのか?

 まぁ、所詮は占い。当たるも八卦、当たらぬも八卦。とは、東の大陸の言葉だったな。

 

 あとはフフフ……。

 報酬を貰えれば転ドラの3巻が買える!

 楽しみすぎて涎が出そうだ。


 僕たちの国。王都ロントモアーズまであと2日。

 それは、僕が転ドラを入手するまでの期間と言ってもいい。

 そんな時だ。


 僕の鼻腔に透き通った匂いが充満する。

 それは薔薇のように高貴な香り。

 清潔感と気品に満ち溢れている。


 腰まで伸びたサラサラの赤髪が僕の前を通りすぎる。


 そして、僕の横に、剣士のヒナエさんが座ったのである。

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