第10話 独占欲
「もうすぐ夏休みですね」
いつも通り玲香と一緒に登校していると、ふと玲香が思い出したかのように言った。
「最高だな。よく寝たり、アニメ観たり、ダラダラしたり……」
「大河君、勉強も大事ですよ」
「分かってるんだけどね」
なぜか夏休み前はやる気があるのに、夏休みに入った瞬間に行方不明になってしまう。あれはなんなんだろうな。
「玲香は何したいのかとかあるの?」
「そうですね……大河君と一緒にいたいです」
「そ、そっか」
このように面と向かって言われると流石に照れてしまう。
「8月にある夏祭り、一緒に行きましょうね」
「そ、そりゃもちろん」
「嬉しいです。それで、あの大河君」
「うん?」
玲香はモジモジとして何か言いたそうだった。
「私は、そんなに魅力がないですか?」
「えっ、どういうこと?」
「私はそんなに恋愛の知識を持っていないのですが……恋人ってキスとか、そのエッチな事もするのでしょう?」
「い、いや俺たちは高校生だし! それは大人になってからとか」
と建前上は言うものの、俺のそういった考えや論理は既に崩壊している。今までは冴のことを意識して、そういった事はしてなかった。
けどこの前の冴とのキスで、俺は玲香の事も凄く意識してしまった。
「でも私たちは手しか繋いだことがありません」
「それは、まぁそうだけど」
「なら今キスしていいですか?」
「いや、でも学校の近くだし! 誰か来るかもしれないし……」
「いいじゃないですか。私たちは付き合ってるんですから」
こうして俺は玲香に口を奪われた。いつもの清楚な感じと違って、どこか
「好き、好きです大河君……」
「ちょっと玲香! 落ち着いて!」
「誰にも取られたくない、一緒にいたい、離れたくない……」
「もしかして冴の事、少し気になってる?」
何だか今日の玲香は独占欲が強い。今まではこんな事なかったのに。やはり俺が冴と仲が良いことを気にしているのだろうか。
「そうですよ。好きな人には私だけ見ててほしいものです」
「そっか」
「そうなんです」
冴も玲香も俺にこんなに向き合ってくれるのに、俺はなんてクズ野郎なんだろう。冴も好き、玲香も好き。そんな不純で選べない俺が嫌になる。
「大河君は私が好きじゃないんですか?」
その玲香の問いに俺はドキッとする。何だか俺の心を見透かされているような気がして……俺の心拍数がどんどん上がっていく。
「もちろん好きだよ」
本当は冴も好きだけど、なんて言えるわけがない。
「なら、私だけを見てほしいです。私を愛してほしいです。私は大河君の全てを受け止めますから」
なんて理想的な言葉なのだろう、と思う気持ちと玲香と冴で揺れ動く罪悪感が混じってよくわからない感情になる。
「玲香の気持ちは嬉しいよ。でも冴も大事な友達だし、他にも仲良い女子はいるんだ。それに俺たちは高校生だ。そこまで深く考えるものでもないよ」
あぁ、今日も逃げてしまう。この前もそうだった。ずっとそうだ。もうクソ人間どころじゃない気がする。
「そうですか」
その玲香の表情は悲しげで今にも泣きだしそうな表情で。そんな表情を見て、俺はつい提案をしてしまう。
「玲香さ、今日学校サボらない?」
「えっ?」
「俺と玲香は付き合ってるわけだし、成績も良い。俺らが連絡しても疑う事はないだろうし、一回ぐらい良いだろ」
「で、でもなんで」
「そんな表情見たらな」
俺は無意識にこんな事を言ってしまった。今は玲香も凄く意識してしまっている。
「大河君、嬉しいです。サボらせていただきますよ」
「そんなたいそうなものじゃないけどな」
「だから好きなんですよ」
玲香のその表情を見て、俺も嬉しくなってしまう。
俺はクズ男でダメで優柔不断な男だ。それは自分自身分かってるし、色々言われることも理解している。
だけど、この問題を解決しないといけない。自分の気持ちも大事だけど、冴と玲香の気持ちにも向き合わないといけない。
とりあえず今は、玲香と楽しもう――
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