第7話 表彼女
冴と玲香について、俺は考えていた。どっちも離れたくはない存在で、どっちも彼女。本命、というか本当に好きな人は冴だが、そんな事をおおやけにできるわけもなく。なら、玲香を振ればいいという話だが、それもできず。
おそらく彼女がいない男性全員に凄く俺は恨まれるだろう。まぁ、許してくださいとは言えないが……美少女2人を目にしてから言ってほしいものだ。
最初は間違いなく冴の事が大好きだったし、今も変わってない。ただ、この引っ掛かる気持ちが玲香と過ごした約1年分の思い出であり、未練なんだろう。
まぁとりあえず今のところは、玲香が“表彼女”で冴が“裏彼女”だ。
昼休み、すなわち昼食の時間。俺は、壮太と琢也に
「じゃあ、今日も彼女と食べてくるわ」
と言って、玲香と共に空き教室に行く。
「流石だな、大河。ヒューヒュー!」
「いいですね、彼女がいる人は……」
今日からは、壮太と琢也の声も俺の心に突き刺さる。
「大河君、行きましょうか」
「ああ、そうだな」
と教室を出る時に冴が物凄い目で睨んでいた気がする。反応してしまうとバレるかもしれないし、スルーしとこう。
俺と玲香はよく空き教室で食べている。人も来ないし、静かだからだ。ちなみに空き教室は3階の第1学習室だ。普段、数学とかで使う教室である。
「よいしょっと」
俺はそう言っていつも通りに菓子パンを出す。普段、親からは学食費を貰っているのだが、菓子パンの方が安く済むし金も貯まる。素晴らしい。
すると、玲香が何か言いたそうな目で俺を見ている。
「なんだ?」
「いえ、いつも菓子パンでお腹空かないのかと」
「だからお腹空かないように多く入ってる奴買ったり、腹持ちがいい奴買ってるんだよ」
「体に悪くないですか?」
「しょうがねぇよ。親は忙しそうだし、俺は料理はできないからな。晩飯は流石に作ってくれるし、そこで帳尻合わせというか」
すると玲香は、恥ずかしそうに弁当を2個出した。
「別に俺はよく食べる女の子も好きだぞ。俺が不健康なだけで」
「いえ、そうじゃなくて。あの、えと弁当作ってきたので食べませんか?」
「いやいや誤魔化さなくていいって。たくさん食べな」
「いや! あの本当に作ってきたので」
「……まじ?」
俺、作ってとか言ってないよね? 予想外の事態に俺は動揺する。
「えっ、俺作ってとか言ってないよね?」
「はい。私の自己満足ですけど……大河君にも健康でいてほしいので」
「なるほど」
「食べてくれますか?」
「そりゃまぁ」
そうして弁当箱を開けてみる。俺はおもわず、
「すげぇ……」
と言った。卵焼きやサラダ、ウィンナーに野菜の天ぷら、フルーツなどが綺麗に彩りよく盛り付けられていた。高校生の男子、というところと健康面を考えるという点もクリアしている。
「私が作ったので、味は保証できませんが」
「えっ、これ何かのイベント? めっちゃ豪華なんだけど」
「そうですか? 基本、簡単に作れますよ。天ぷらとかは、昨日お母さんと作った晩御飯の残りですが」
「まぁとりあえず、ありがとう」
朝は冴、昼は玲香と何て豪華な食生活なんだろうか。まぁ、俺の場合は女の子が2人いることが問題なんだけど……
「じゃ、いただきます」
そう言って俺は玲香の弁当を食べ始めた。あれっ、めちゃくちゃ美味しい。止まらない。味付けも俺に合うように濃くしてくれているのかな? いやこれ最高。
「ごちそうさまでした」
普段はあまり食わない俺だが、つい美味しすぎて10分ぐらいで食べてしまった。
「美味しかったですか?」
「あぁ、めちゃくちゃ美味しかった。今まで食べた中で一番かも」
「もう、大河君は褒め上手ですね」
これは本当にお世辞抜きの感想だ。冴や母さんの料理も美味しいのだが、玲香はレベルが違うというか。
「何でこんな美味しく作れるんだ?」
「特別なことはしてないですよ。強いて言えば……愛情ですかね」
「っ!」
その玲香の言葉に俺は思わずドキッとしてしまう。
「それじゃ教室戻りましょうか」
「ああ、そうだな」
はぁ、どうしたらいいんだよ……
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