第6話 青春
「おはよ、大河」
「あっ、冴……おはよう」
俺は朝、冴に起こされる。そういや昨日、冴の家に泊まったんだよな……と改めて思い出す。あっ、流石に寝る部屋は別だったぞ?
「朝ご飯準備できてるから、準備して食べよ。あと、大河が家を出る時は注意をすること。私とは時間を少しずらすこと。そしてお互いの相手にバレないようにすること」
「あっ、そうだな。気を付けないと」
そうだ、バレてしまったら俺の高校生活は終わる。
「わかった。着替えるから、先に待っててくれ」
「ん。てか大河は本当によく寝るよね。いびきとか健康に悪いんじゃない?」
「まぁ生きているから大丈夫だろ」
いびきはかかない方が良いとは思うが、生きているから大丈夫だろ。などと思いつつ、制服に着替える。朝早くから勉強しなくていいのに、と毎日思う。
顔を洗い、制服に着替えて1階に降りる。とても美味しそうで良い匂いが充満していた。
「あっ、おはようございます」
「あら、大河君おはよう。朝ご飯食べちゃって。冴が朝早くからね……色々はりきっちゃって」
「もーお母さん言わなくていいのに」
焼き魚に味噌汁に卵焼きに納豆……これぞ日本だ、大和魂! みたいな完璧な朝食が机に並べられている。しかも驚いたのは全て冴が調理したということだ。
冴は昔、俺と一緒で料理なんか全然できなかった。神代の影響なんだろうな、と思う。
「今、嫉妬した?」
「いいやしてない。断じてしてない」
「男の子ならまだしも女の子ならね。料理できないと」
「そんな事はねぇよ。今は多様性の時代だしな」
「なら、大河は料理できるの?」
「レンジとポットの使い方は一流だぜ」
「それカップ麺と冷凍食品だよね?」
ちなみに俺は料理は大の苦手だ。勉強や運動はある程度こなせるが、料理や手芸、掃除といった家事系は苦手だ。
「私が出来といたほうがいいでしょ? 将来のために」
「しょ、将来のためにな。う、うん」
将来のために、と言われつい恥ずかしくなってしまう。冴がこうして俺を思ってくれることは本当に嬉しい。
その後、朝食を食べて歯を磨き、お互いのパートナーに連絡をする。ちなみに朝食はとても美味しかった。俺はいつも菓子パンだからな。
「本当ならお弁当も作ってあげたいけど、流石にバレるからねぇ」
「まぁ、そうか。それで連絡の方はどうだ?」
「大丈夫。神代君は先に行くって。大河の方は?」
「まだ、来てないな。おっ、言ってるそばから来たか?」
ただ、玲香から来たメッセージは予想していないものだった。
『大河君、大丈夫ですか? 私は遅刻しても大丈夫なので……いくらでも待ちますよ』
そのメッセージを見て、
「うわっ、めっちゃ良い子じゃん。まぁ、私も大河にはそういうけどね!」
「分かってるよ。てかどうしよう。これ詰んでない?」
「はぁ、しょうがないなぁ。任せなさい」
とても焦る俺。ただ、冴には何か考えがあるようだ。
「一応、私も清野さんの連絡先は知ってるからね。清野さんに昨日、担任の先生が呼んでたよ、っと。はい送信完了」
「えっ、大丈夫なのかそれ?」
「一応、先生が呼んでだってことは本当だからね。何か質問しに行ってた問題について? だったと思う。それで思い出した、っていうのと呼んてた、っていうダブルパンチ」
「まぁ、嘘はついてないな」
すると俺の形態の通知音が鳴る。
『どうやら先生が呼んでたようなので……申し訳ないけど先に学校に行きますね』
という玲香からのメッセージだった。
「こんなのをあと1年半ぐらい乗り越えないといけないのか……」
「大河、大変だけど頑張ろうね」
「そう、だな」
こうして俺たちはバレないように時間をずらして、家を出る。確認できる限り、人に見られた事はないと思う。
朝、登校すると冴と玲香が話していた。
「何かと思えば、質問についてでしたか。月花さん、ありがとうございます。でも今度からは詳細とかも連絡してほしいです。何かわからなかったけど」
「あぁ、ごめん! 私も聞いただけだったからさ。まぁでも不意に朝思い出しちゃって。何か用とかあった?」
「用というものでもないかもしれないですけど……彼氏の大河君とは毎日一緒に登校してるので。やっぱり好きな人とは一緒にいたいじゃないですか」
「うん、そうだね。ごめん」
傍から見れば、何もおかしくないただの普通な会話だ。ただ、全てを知っていて2人をよく知る俺には複雑で。
青春というのは炭酸のようなものだ、とよく言われる。実際、青春は楽しくて、はじけて、明るくて、綺麗で。それでいて素晴らしいものだろう。
ただ俺の青春はドロドロとしていて。汚くて最悪なものだ――
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