第4話 Secret

「大河、何について話そうか?」

「いや決めてないのかよ」

「何となく言っただけだし」


 冴に言いたい事はいくつもある。けどチキンな俺が言えるわけもなく。


「じゃあ、最近あった面白い事とか?」


 と俺は逃げてしまった。


「えぇ、何か面白くない」

「文句言うなよ。なら冴の方から話題振ってくれよ」

「うーん、じゃあ恋愛事情とか」

「なんだそれ」


 冴は相駆らわず俺を逃がしてはくれない。


「別に玲香と仲良くやってるよ」

「ふーん、そうなんだ。じゃあキスとかしたの?」

「言うわけないだろ」


 なら冴はどうなんだよ、と言いたくもなったが、余計にダメージを負う可能性もあるのでその言葉は飲み込む。

 俺らも高校生だ。行為とまでは行かなくても、ハグやキスなどはしていても何もおかしくない。


「でも、清野さんとは付き合うとは本当に驚いたなぁ。まぁ清野さんも可愛いし、分かるっちゃ分かるけど」


 その冴の言葉は、悲しさや怒りなど様々な感情が入っていたような気がした。


「……なぁ冴。もしかして怒ってる?」


 冴とは仲直りしたが、仲はまだ完全に修復していない。冴はまだどこか俺に色々思っている気がして――


「別に、もう関係ないし。それは皆の自由、だしね」

「関係ない? そんなことはないだろ。俺たちは一応、友達なんだしさ」

「じゃあ、私がわがまま言ったら聞いてくれるの?」


 その冴の問いに、俺は何も言えなくなってしまう。俺は確かに冴が好きだ。でも、このまま平穏な日常が続けばいいのにとも思っている。

 俺たちが喧嘩した時、一日一日が苦痛だった。玲香の告白を受けたことで、冴や将人と離れてしまった。だけど、隣に玲香がいて。少し落ち着いた自分もいた。



 もし冴が、

「じゃあ、清野さんと別れて」


 と言ったら俺はどうなるのだろうか。果たしてきっちり玲香を振り切れるのだろうか……

 もし冴が付き合って、と言ってきたら? いやそんな夢みたいなことを考えるのはやめよう。冴にも彼氏はいるわけだし。



 そうやって長考していると


「もういいよ。もういい」


 冴の表情は相変わらず、悲しいような感じで。それに怒りなどの感情も含まれているみたいで。

 ただ、俺だって言いたい事はあるのに、という気持ちが湧き上がってくる。俺がパンドラの箱を空ければ、冴はどういったリアクションを見せるのか。


「冴、ごめん。なら俺も一つ質問させてくれないか?」

「ん、なに」

「冴はなんで過去の自分を捨てた? いや違うな。なんで“封印”した?」

「!」


 冴は予想してなかったのか、驚いて固まってしまった。


「俺だって勝手に見たのは悪いと思ってるよ。でも、気になるんだ。なんで過去の自分を捨てたのか」

「……大河のせいじゃん。大河が! 勝手に離れていくから! 私も変わらなきゃって!」

「それは、どういうことだ?」

「なんで離れちゃうの? なんで清野さんと付き合っちゃうの? 私はそれで大河を忘れようとしたのに! 変わろうとしたのに!」


 俺は冴の本音を初めて聞いた。冴が俺の事をこんなにも思っていることを知らなかった。


「もしかして、冴は……」

「そうだよ。私は大河が好きだったよ! でも大河が私のことを遠ざけて玲香と付き合っちゃうから!」

「そう、だったのか」


 最初から俺が素直に謝って、冴に告白すればこんなややこしいことにならなかったんだ。改めて自分のアホさに腹が立つ。


「でも、もう無理だね」

「だから神代と付き合ったのか」

「そうだよ、神代君は人気だったしね。付き合えば、大河も意識すると思った。まぁ地雷だったけどね」

「な、なるほど」

「過去に戻りたいなぁ」


 ここで俺が本音を冴に伝えれば――


「大河君。そんな人だったんですか」


 玲香には間違いなく嫌われるだろう。壮太や琢也にも何を言われるか分からないし、将人にも何をされるかわからない。さらには神代との問題も発生するし……間違いなくいばらの道になる。

 ならお互いに隠して付き合い続けるか? 卒業して玲香とは自然消滅、そして冴と付き合う。これならまだ実現性はある。けどバレた場合、地獄絵図になる。



 ただ今の日常も好きになっている、壮太や琢也と話して、玲香と一緒に通学したりデートしたりして。俺が玲香に振り向けば、どんなに幸せだろうかと考えたりもした。


 さあ、俺は何を冴に言ってあげたらいい? どうしたらいい?



「俺も、冴が好きだ。今もずっと好きだ」

「え……」

「お前が一番好きだ。昔みたいな関係で、楽しく付き合いたいと思ってるよ」

「好きだよ、冴。本当に大好きだ」


 俺は一番に言いたい事を冴に言った。俺は冴にずっと言いたかったんだ。大好きだって。


「えっ、大河!? ほ、ほんとに」

「ほんとだよ。冴が大好きだ」

「じゃ、清野さんは?」

「それは喧嘩とか色々あったからだ。冴と理由は似てるな」

「大河、私も好き。大好き。今日さ、大河見てさ。私も欲を止められなかったもん」


 そうして俺と冴は抱き合った。お互いを確認しながら。

 俺らは抱き合いながら話を続ける。


「大河はこれからどうしたらいいと思う?」

「流石に公にするのはまずいと思うからさ、隠れて付き合おう。それで卒業後、同じ大学に行って改めて付き合おう」

「うん。私をちゃんと見てね」


 こうして俺と冴の秘密の関係が始まった。

 ただ、俺は過酷な道になることにまだ気づいてなかった……

 

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