第3話 パンドラの箱

『はぁ、なんでこうなっちゃったんだろうな……』


 俺は心の中で、そう呟いた、俺は今日、冴の家に泊まることになった。

 そして明日も学校はあるので、必要なもの等を準備して一回俺の家に戻ることになった。うん、改めて意味が分からない。


 ちなみに制服は濡れたが、冴の家にあった俺の昔のTシャツとズボンのおかげで助かっている。少ししわしわなのは恥ずかしいが。

 


 少し歩いて、俺の家に到着すると


「うわっ、変わってないね。昔のまんま」

 と冴は言った。


「昔、って言ってもまだ来なくなってから1年も経ってじゃねぇか。歴史舐めんな」

「そういうとこ、変わってない」

「そりゃあどうも」



 そんな会話をして俺はドアを開けた。


「父さんは仕事、母さんもまだパート中だ」

「連絡は一応、私のお母さんがしたから大丈夫だよ。どうせ、返事は決まってるし」

「うちの親はそういうの喜ぶからな……」


 そうして階段を上って、俺の部屋に行く。えーと制服と、明日必要な課題と……それぐらいか。


「うわっ、部屋は変わったねぇ」

「そりゃまぁ、少しは。大幅には変えてないけどな」


 俺の部屋は趣味全開、という感じだ。自分がハマった漫画やラノベ、好きな野球のグッズやお笑いのDVD、さらにはタペストリーにフィギュアを飾ったりと自分でも満足している部屋だ。


「昔はよく来たなぁ。それで色々遊んだよね」

「遊ぶ、っていってもほぼダラダラしていたけどな。そこの本棚の漫画読んだりな」

「そう、だね」


 少し冴に違和感を感じたが、無視して必要なものを準備する。


「まぁ、これで大丈夫かな。よし、戻るか」

「そうだね。お邪魔しました」


 いつも冴が帰る時に言っていた“お邪魔しました”という言葉に懐かしさを感じながら、俺は鍵を閉めた。




 冴の家に戻ってからは、質問の嵐だった。冴のお母さんが、


「私は結婚はいつでもいいのよ。あっ、でも色々するときは気を付けてね。それでいつにするの?」

「冴のどごを大河君は好きになったのかしら?」

「それでデートとかはどうなの? 最近はないみたいだけど」


 いや仮に本当の彼氏だったとしても、これはちょっと恐怖だな。




「はぁ、疲れた」

「お疲れ様。色々ごめんね」


 軽く1時間ぐらいの質問の嵐で俺はヘロヘロだった。夕立よりもたちが悪い。


「もう暗くなったし、そろそろお風呂とご飯にするね。お風呂は一番先に入っていいから」

「おう」


 冴が入浴した後は無理なので、非常に助かる。と、俺はここで質問……というか確認? をする。


「なぁ、冴」

「うん?」

「お前が神代と付き合ってること、別に冴のお母さんに言っていいよな?」

「なんで」

「なんでって言っても……まぁ事実だし? 俺もいっぱい質問とかされるし」


 冴にとっても、ここで関係性をハッキリさせといたほうがいいだろう。俺も気は進まないが、冴のためでもあるし。


「それは、やだ」

「どうして?」

「大河はどうしてだと思う?」


 もしかして俺が好きだから? などと言えるわけもなく。


「単純に面倒くさいとか? ややこしくなるし」


 俺は逃げた回答をした。


「まぁ、一応正解」


 いやあっっっっっぶねぇぇぇ……マジで変な事言わなくてよかった。

 ただ、冴の表情はどこか悲しいような――



 その後、ご飯と入浴を済ました俺は、冴の部屋でダラダラと過ごしていた。


『今、冴が風呂に入ってんだよなぁ。って、何考えてんだ俺は』


 男という生き物はなんて愚かな生き物だろうか。


『ただ、他にも気になるしなぁ』


 好きな子の部屋、っていうだけで気になるのに、大きく変わっているという点もあるときた。それに一度考えこむと、なかなか悪い考えを振り切ることはできない。


『まぁ、ちょっとなら神様も許してくれるだろ』


 そう心の中で言い聞かせつつ、俺は冴の部屋の押し入れをあけた。そこは俺の予想してなかった光景だった。昔読んでいた漫画やラノベ、CDにゲーム……それらが綺麗に段ボールに収納されている。箱の側面には大きなバツの印が書いてあった。

 よし見なかったことにしよう。これは触れてはいけない、とすぐに感じた。例えるなら、パンドラの箱とでもいうのだろうか。


「大河おまたせ。何も触ってないよね?」

「俺は健全だからな。彼女持ちだし」


 嘘です。変態でごめんなさい、神様。


「ならよかった。それで何しようか?」

「そうだなぁ。ゲームとか?」


 俺はしれっと押し入れの話題に持っていこうとする。触れてはいけない、と思ったがやはり気になる。まぁ、バレないように慎重に……


「あぁ、ゲームね。もうないんだ」


 冴は嘘をついている。さっき押し入れにあるのを確認した。間違いなく。


「それは、何でだ?」

「なんか、女の子らしくないかなって」

「そんなことはねぇだろ」

「まぁゲームすると口悪くないし」


 やはりおかしい。間違いなく、神代と付き合い始めておかしくなっている。いや、もしかしたら喧嘩した時ぐらいからか?


「なら、もうお喋りぐらいしかないぞ」

「いいじゃん。話すの楽しいし」

「まぁ、いいけどさ」


 まだまだ夜は長い――




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