第2話 変化

 冴の家は、確かにこの辺だったな……と思い出しつつ、冴についていく。雨もすっかり止み、俺の気持ちを表すように日差しが出てきた。


「昔はさ、毎日のように遊んでたもんね」

「あの頃がバグだったんだよ」


 こうして、久しぶりに冴の家にお邪魔することになった俺は嬉しい気持ちもあり、悲しい気持ちもあり。


「神代もそういや家に呼んだのか?」

「いや、まだだよ。家に入れたのは、大河だけ。えへへ」


 やめろ、その笑顔が俺には突き刺さる。


 家に入ると、冴のお母さんが

「あらぁ、大河君! 久しぶり! 喧嘩して別れたのかと思ったわ」

 と話しかけてくる。それがまた懐かしくもあり、槍のように突き刺さる。



「まず、付き合ってませんって。何回言ったらわかるんすか」

 昔は楽しかった感じも、今となってはみじめな姿だな。


「ごめんごめん大河。私の部屋に行こ」

 やっぱり俺は、来てはいけなかったのかもな……全てが痛い。





 2階の冴の部屋に入ると、1年前とは大きく変わっていた。本棚は綺麗サッパリなくなっていたり、昔はなかった料理の本などが散乱している。


「はい、着替え。ずっと置かれていたTシャツと何かよくわかんないズボン」

 冴がポイっと投げてくる。


「うわっ、懐かし。お前らここにいたのか」

 昔はよく冴の家に出入りしてたので、私物を置いていたことを思い出す。冴の前だと何でもいいや、と思ってファッションには気を使ってなかったな。


 ここで俺は気になったことを冴に質問する。


「冴、お前料理なんてするようになったのか?」

「神代君がね、手料理食べてみたいって言うからね」


 うわっ、聞かなきゃよかった。次から次へとダメージを受ける。


「そういえば本棚は?」

 俺が2個目の質問をぶつけると、


「いや、なんかあーいうオタク? なのは卒業しないとなって」

 と、冴から予想外の答えが返ってきた。


「そんなことはねぇだろ」

「いや、神代君がさ。こーいうのはやめた方がいいとかって言うからさ」


 なんだそれ。なんでそんな奴が彼氏なんだよ。


「それは……ないんじゃないか。本当に彼氏なら、そんなことは言わないと思うぞ」

「いやでも、神代君って本当凄い人でさ、いい人だから。私も“変わらないといけない”から」


ふざけんなふざけんなふざけんな……! でも全て俺のせいなんだけどな、と思うと何も言えなくなってしまう。


「そうか。まあ仲良くやれよ」

「そちらこそ」

「こっちは順調だよ」

「そっか」



 本当は、君が好きだったのに。どうしてこうなってしまったのだろう――


 



 高校1年生の9月に、俺は玲香に告白された。当時、俺は学校でも屈指の人気を誇る女の子である玲香に告白されて、とても浮かれていた。

 ただ俺には好きな人がいた。それが冴だ。俺は当時、冴と今は元親友になる将人とよく一緒に遊んでいた。

 

 

 ただ、玲香に告白された時期ぐらいに、俺と冴と将人は喧嘩をしていた。それは確かしょうもないことだったと思う。ちょっといたずらをした、とか軽い話題で口論になったとか……ただ、当時はそんな色々なことを考えられなくて。玲香に、



「いいよ、付き合おう」


 と言ってしまった。将人は玲香が好きだったので、俺が玲香と付き合えば、将人に一泡吹かすことができると思ったからだ。

 冴も、どこかで俺の事が好きだろうという気持ちがあるだろうと思っていた。だから俺が付き合えば、きっと冴は焦るはずだと思った。だから俺は、玲香と付き合って冴を焦らせて、仲直りをする。玲香とは頃合いを見て別れて、冴に対しても頃合いを見て告白をする。



 言わなくても分かる。俺が当時バカだったてことは。でも高校生なんてそんなものだろう、とも思う。しょうもないことで喧嘩して、笑って、遊んで。少し自由になって、少し大人になって。色々とはめを外したりしてしまうのだろう。

 ただ、自分の考えた通りに行かないのが人生である。将人とは余計離れてしまったし、冴とは一応仲直りは出来だが、よそよそしくなってしまった。さらに、最近になって神代とも付き合い始めてしまった。

 自業自得だってことは分かっている。けど俺はこの恋を忘れられない……




「大河?」


 冴の声で俺は現実に戻される。


「あっ、ああ。これ以上居ても悪いし、帰るよ」


 俺は逃げ出そうとする。ただ、冴はここで俺が予想してない事を言った。


「もう帰るの? 久しぶりなのに」


 なんだよそれ。あの件以降、そっけなくなったくせに。いまさら何があるって言うんだよ。


「別に泊まったりしてもいいよ。前みたいに」

「彼氏いる女の子が言うセリフじゃねぇよ」

「別に友達だし、大丈夫っしょ」



 そうやって言い合いのようになると、冴のお母さんが入ってきた。


「はい、これお菓子とジュースよ。2人で食べてね。それで何話していたの?」


 冴のお母さんは、度々俺らの関係を気にしていたり、ちょっかいを出したり、余計なことを言う。冴のお母さんは、俺ばっか気にするけど、神代の子とは話してないのか?


「いや、別に今日大河が泊まってもいいよね?」

「わっ、それは久しぶりでいいわね! 大河君のお母さんにも言っておくわね」

「あ、あっちょっと」


 俺の意見も無視され、俺は冴の家に今日泊まることになってしまった。


「明日も学校だぞ?」

「それならこの後でも必要なものだけ取りに行こうよ。ちょっと大河の部屋もどうなってるか気になるし」

「それじゃ、泊まりの意味ほぼないじゃねぇか」




 あぁ……まだ俺は君を忘れられない……

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