【休載します】運命の赤い糸はどこに
向井 夢士(むかい ゆめと)
第1話 好きな人
俺は、
と、ここまで聞けば、多くの人は羨ましいと思うかもしれない。こんな楽しい青春を過ごせてめっちゃいいじゃん! なんて思ってるんじゃないのか?
確かに今は楽しい。けど、俺には彼女とは別に“好きな人”がいる。なぜもっと早く気づけなかったのだろうか……今はそれを悔やむばかりだ。
「おはようございます、大河君。梅雨も明けて、暑いですね」
朝、家を出ると、いつも通り待っていて挨拶してくれる俺の彼女が、そこにいた。
俺の彼女の、
「あぁ、おはよう玲香。今日も暑いな」
彼女の玲香とはこうして毎日一緒に登校している。俗にいうリア充とかいう奴だ。
「今日は、小テストがありますね。大河君は、バッチリですか?」
「俺はあんまり勉強好きじゃないからなぁ。まぁ8割取れたらいいか」
「大河君は、本当に要領がいいですね」
などと、他愛もない会話をしたりして。本当に青春真っ盛りといった様子だ。玲香とも付き合って1年ぐらいになる。
ただ本当に好きな人ではない――
「うぇい、おっはー大河。」
教室に入って、挨拶してきたのは俺の友達の、
「おはよう、大河。昨日貸した、愛してやまない彼女に困っています、の5巻読みました?」
こっちのさわやか系眼鏡男子は、
あと、オタク趣味という共通点を持って仲良くなった、ってのもある。
ちなみに、愛してやまない彼女に困っています、という作品は、彼女が愛してくるけど主人公には好きな子が別にいて苦労する……という話だ。
「あっ、読んだ読んだ。主人公が好きな子こそが本当のヒロインだよなぁ」
俺が、なぜこういった作品にハマるのかは、自明の理であるが。あいつもオタクだったんだけどな。
そうやって話していると、チッ! と舌打ちをされた。そいつは、見慣れた顔だった。
「大河って、森下に嫌われてるよな。1年の頃にはめっちゃ仲良さそうだったのに」
「うるせぇ、壮太。色々あったんだよ」
俺に舌打ちをしてきたそいつは、スポーツ刈りの頭で見慣れた顔の元親友だった。
その親友の名前は、
ところでこのクラスでは、俺と玲香は結構なビッグカップルなのだが、つい最近新しいビックカップルができた。
「キャーかっこいい!」
「本当お似合いだよね」
「仲良さそうでいいなぁ」
などと、声が聞こえる。はぁ、今日もまた登校するだけでこの盛り上がり……
「大河も1年の頃に、清野さんと付き合い始めて話題になったけど……すっかり人気とか取られちゃいましたよね」
「琢也、その話はもういいって」
だって、それはとても羨ましいもので――
俺は“あの子”が好きだから……
「神代君ー!」
「かっこ良すぎ……」
「羨ましいなぁ」
などと、女子から絶大な人気を誇る新ビッグカップルの男側、
「月花さん、めっちゃ可愛いわ」
「少しボーイッシュな感じがあるのもたまらん」
「月花さんは、清野さんと違った良い所があるよね」
そしてその神代の彼氏であり、玲香と共に人気のあるこの学校のヒロイン、
こちらも俺の元親友であり、俺の好きな人だ。誤解のないように言う。好きだった人、じゃない。今現在、“好きな人”だ。
まぁ、こうなってしまったのには色々と理由がある。それはまた、話す機会が来た時に話そう。
「大河ってさー月花とも仲良かったよなー」
「まぁ、お互いに恋人ができたしな。壮太も彼女が出来たら、異性との関係見直すだろ?」
「まぁ、それは確かに」
ただ俺らは、そんな良いものではない。俺らは、ただ疎遠になっただけ。
時は戻らせてくれず、ただ進むだけで。それが本当に苦しい。
「今日は急用があって……ごめんなさい」
「気にしなくていいよ、玲香。また明日の放課後、カフェにでも行こう」
放課後も基本、玲香と一緒に帰っているのだが、今日は急用があるみたいだった。
「なんか1人になったの久しぶりだな」
と俺は、道草を食いつつ、色々な事を考えながらゆっくり帰る。
俺と玲香は、1年ぐらい付き合っているが、手を繋いだだけ。高校生なら、キスやら行為やらといってしまいそうだが……そういったことをしないのも玲香の事を本当に好きではない俺が原因で。
「もう、このまま諦めて玲香と真っすぐ本当に付き合うのもいいのかもな」
そうやって呟くと、頭に雨粒が落ちた感覚がした。
「うわっ、やべ。もう夕立とかの時期だ」
そういって、俺は急いで走り出す。確かここからなら、駅が近かったはずだ、と思い、そこで雨宿りすることにした。
「はぁ、もうビショビショだわ。これが神に見放された男、ってな」
そんな俺をいじめなくてもいいじゃないか、神様。
すると、
「大河?」
と俺を呼ぶ声が聞こえた。今、仲良くしているメンバーで、俺を名前で呼び捨てするのは、壮太と琢也だけ。でもそんな男っぽい声ではなく。
「さ、冴……」
そこには、俺の元親友かつ好きな人が間違いなく、そこにいた。
「なんか久しぶりじゃん」
「あ、あぁそうだな」
「本当困っちゃうよね」
「あ、あぁもうビショビショだよ」
久しぶりの会話なのに、冴の距離感は変わらない。それに俺は戸惑ってしまう。
「私の家、近いのはもう知ってるでしょ? 風邪ひくといけないし、久しぶりに家寄る?」
どうやらまだ神は、俺を見放してはいなかったみたいだ。
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