第29話

 この世界では、日向野家の両親には子供はいない。

 俺と光はいないことになっている。

 てかっ、存在していないんだ。

 だから、早く俺の影をなんとかしないといけない気がする。


 あいつめえ、少し俺より強くなっていやがった。

 なんでか、羽交い締めにされた時にそう感じた。

 腕の力が半端なかったからだ。

 俺の影も俺の存在を無くそうとしているんだな。


 上を見上げれば、星々が輝く夜の空が広がる。

 道路の所々から桜の木々が顔を出し、花弁を地へと舞落としていた。


 黒い家から東へ走ると、家屋の間に挟まっているような場所にあるホームセンターにたどり着いた。


 こじんまりとした個人経営のホームセンターだ。

 昔は親父と光とよく来たっけ。


 こんな夜更けに開いているのかと一瞬思って、首をかしげた。

 今、何時だ?


 まあ、入ってみよう。


「いらっしゃーせー」


 殊の外薄ぐらい店内から、若い女性店員の声が聞こえた。

 

「すいませーん! 登山道具一式ください! お金は……うぎっ?!」


 そういえば、金がなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る