第2話 発覚


―――


「昨夜は悪かったな。」

「ううん。僕の方こそすみません。起こした方が良かったですか?」

「いや。」

「そう、ですか。」

「そろそろ行く。」

「え?もう?朝ご飯は……」

「いい。」

 城田さんは素っ気なく言うと玄関へと向かった。慌てて追いかける。


「じゃあお昼のお弁当、持って行って下さい。ちょっと待ってて、今持って……」

「いや、今日はちょっと外出する用事があるんだ。弁当はいい。」

「そうですか……」

「じゃあ。」

「あ、行ってらっしゃい。」

 僕の声なんか聞こえていないかのように城田さんはドアを開けて出て行く。中途半端に手を上げた格好のまま、しばらくそうしていた。




―――


「……はっ!今日は休みだから掃除しようと思ってたんだった!」

 玄関先でボーッとしていた僕は、掃除をする予定だった事を思い出して我に返る。まずは布団を干そうと慌てて寝室へと向かった。


「あ、もうこんな時間。」

 床掃除をしながら何気なく時計を見たら、もう夕方になっていた。雑巾を片付けた後冷蔵庫を開けた。


「買い物行かなきゃ。」

 食材が殆どなかったので、僕は買い物に出かける準備を始めた。


 いつも行く商店街ではなく気分転換にちょっと遠くにあるスーパーに行こうと決め、歩いてそのスーパーへと向かった。




―――


「いっぱい買っちゃった……」

 予定よりたくさん買ってしまった僕は両手の荷物に恨めし気な視線を送った。食材だけでなく隣にあったデパートでも色々と衝動買いしてしまったのだ。買い物でストレス発散をするタイプだとは思わなかった。

 でも少しスッキリした気がしたので、まぁいっか、と荷物を抱え直した。


「あれ?」

 交差点で信号待ちをしていた時だった。反対側の通りを歩いている人に見覚えがあって、青信号に変わったのに思わず立ち止まる。


「城田……さん?」

 それは見間違えようもなく、彼だった。嬉しくて綻んだ僕の顔はしかし、次の瞬間強張った。

 彼の隣に女性の姿があったから。


「笑ってる……」

 そして僕が一番驚いたのは、彼が微笑んでいた事。いつも僕に見せる顔とは全然違うその表情を見て手から力が抜けた。


 ガチャンと何かが割れる音がしたが、そんな事には構っていられない。僕には見せた事のない顔をしている城田さんと、それに対して満面の笑顔で答えている彼女から目が離せなかった。

 やがて二人は僕の目の前でジュエリーショップに入っていった。


「何、今の……」

 どのくらいそうしていただろうか。僕はポツリと呟いた。

 緩慢な仕草で足元に落ちたスーパーの袋とデパートの紙袋を持つと、よろよろと歩き出した。




―――


 彼の隣で嬉しそうに笑っていた彼女。綺麗な人だった。

 背は城田さんより少し低くて、スタイルが抜群に良くて。美男美女、そんな言葉がぴったりなお似合いの二人だった。

 男で平凡な僕なんか足元にも及ばない。


 ……そう思って、悟った。


 いつの間にか僕の足は止まっていて、スーパーの袋がガサッと音を立てたのが何処か遠くに聞こえた。


「そっか。僕が……浮気だったんだ。」

 自分で発した言葉に心が抉られる。それでもそれが間違いようのない真実だと、先程の光景が主張していた。


「城田さん……」

 僕は綺麗な夕焼けの中、泣きながら彼の名前を呼んだ……



.

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