禁断の恋
琳
第1話 疑惑
―――
「お帰りなさい。」
「悪いな、急に来て。」
「いえ!今日は休みだったから大丈夫ですよ。」
「そうか。」
城田さんは短くそう言うとすたすたと部屋の中へと入っていく。
僕は小さくため息を吐くと彼の背中を追いかけた。
―――
僕の名前は林崎友成。高校の教師だ。教師になって三年目。やっと担任を任されて一年生の担任になったはいいが、今どきの子達の扱い方がわからなくて悩んでいた。
悩みすぎて何も食べられなくなって、夜も眠れなくなってしまって。うつ気味になるまで追い詰められていった。
どうにもならなくなった僕は友人にカウンセラーを紹介してもらった。
オレ様で我が儘で、余計な事を言って相手を怒らせるのが得意だという噂だが評判はいいらしい。半ばその友人の説得に押されるような形で、僕はそのカウンセラーの所に行った。
そこには噂通りのオレ様カウンセラーがいて、最初はそのスパルタに気圧されながらも少しづつ自分の思っている事や本音を吐き出していった。そして最終的には出ていた症状全てが緩和され、僕は身軽になれたのだった。
そしてそのオレ様が、今僕の目の前でソファーにふんぞり返ってる彼である。
彼の名前は城田章。法医学を極めた学者でありながら、プロファイリングや心理分析の知識があってそれを生かしてカウンセラーをやっている。
その天才的な頭脳は申し分なく、容姿と相まって完璧……なのだが。
オレ様な性格と、一匹狼(と言い張っている)のせいで友達がいないらしい。
そして通っている間、城田さんも自分の話を色々してくれた。
彼にも引きこもりの時期があった事、対人関係が苦手だという事。
そしてそんな話をしているうちに、僕の心には彼に対する特別な感情が芽生えた。
彼を守りたい、傍にいたい。そう思うようになっていった。
最初に悩んでいた生徒達の事など小さい事に思えて、その代わりに彼への想いはどんどん大きくなっていった。
カウンセリングが終わったその日、僕は彼に告白した。
驚いた事にその返事はOKで、晴れて僕達はお付き合いする事になったのだった。
―――
「城田さん、コーヒーでいいですか?」
「あぁ。」
キッチンから城田さんに声をかける。彼は短く返事をするとテレビのリモコンを取って電源をつけたが、すぐに消してソファーにもたれかかった。
「城田さん、今日仕事だったんですか?」
「ん?あ、あぁ……今日はアポ無しの客が三人も入ってな。何か用事でもあったか?」
「いえ!別にそうじゃなくて。僕休みだったから。城田さんも休みだったら一緒に買物とか行けたかなって思っただけです。」
「……そうか。今度休みが被ったらどこかに行こうか。たまにはいいだろう。」
「そうですね。」
僕はそう言って、ため息を吐いた。
付き合って半年。
たまにはどころか、二人で外で会うなんて今まで一度もなかったではないか。
僕は彼をチラッと見て、気づかれないようにまたため息を吐いた。
―――
城田さんの様子が変だと気づいたのは、いつだっただろうか。
何かきっかけがあった訳ではない。何となく彼の雰囲気が変わったと感じたのだ。
元々彼はクールであまり自分からアクションを起こすタイプではない。城田さんは恋愛には淡白で僕からの告白を受け入れてはくれたが決定的な言葉を言ってくれた訳ではなかった。だから普段の彼を見ていると、本当に付き合っているのかどうか、怪しくさえ思えてくるのだった。
もしかしたら付き合っていると思っているのは僕だけで、城田さんにその気はないのではないか。告白を受け入れてくれたのはカウンセリングの一環なんじゃ……なんて事も頭を過る。
そしてそんな事を悶々と考えている事が馬鹿らしく思えて、ため息ばかりが出てしまうのだった。
ふと彼を見ると、疲れているのか目を閉じていた。目の下には隈ができていて眉間には皺が刻まれている。
本当に仕事が忙しいだけなのかも知れない。雰囲気が変わったと感じるのは僕の気のせいかも知れない。
だけど……何かが違う。そんな気がした。
これが女の勘、というやつだろうかと考えて一人自嘲した。
気を取り直して城田さんにコーヒーを渡しに行くと、どうやら本格的に寝ている様子。僕はブランケットを取りに寝室へと向かったがドアを閉めた途端、その場に蹲った。
浮気かも知れないと、何度考えただろう。
何度眠れない夜を過ごしただろう。
そして相手が男性かも知れないという可能性にぶち当たって、何度涙を流しただろう。女性ならいっそ諦めがつく。城田さんは別に同性愛者ではないから。
城田さんからの愛を少しでも感じる事が出来たなら、こんなに不安にならなかった。
だけど城田さんはオレ様で我儘で自己中心的な人だから、何かを求める方が間違っていたのかも知れない。
半年も経つのに手も握ってくれない。キスもまだ。
外でデートなんてした事もなければ、城田さんの家に行った事もない。会うのはいつも僕の家。こんなんで付き合っているなんて普通思わないだろう。
しばらくそこでじっとした後、そっと部屋から出て彼にブランケットをかけた。
「城田さん、好きですよ。」
そう呟き彼の疲れ切った顔を少し震える手で撫でると、小さく『おやすみ』と言って電気を消した。
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