Special days 10 パンドラの箱。


 ――冷たさと温もりのコラボしている。


 それだけではなく、様々なコラボが交わるこの場所。露天の湯に浸かっている。



 希望を見出すため……

 きっとあの日は彷徨っていたのだ。


 お母さんと喧嘩して家を飛び出した七夕の日。十三歳になった日に、僕はトナカイさんと出会った。トナカイさんは、雨と冷房で冷えた僕の身体を温めるために、僕の裸体を見たことがあって……あっ、それは倒れた僕を救護するためにだったけれど、今は状況が違う。トナカイさんも全裸。男性の裸……男の人の裸を目の当たりにしている。


 僕にはパパがいない。


 パパと一緒にお風呂に入った記憶もなかった。


 そしてトナカイさんは、まだ僕のパパではない。まだお友達だ。なら、どう見えているの? 僕は子供でも大人でもなく……中途半端で。何か何だか……抑えられている蓋。


 溢れる想いによって開けられる蓋。


 下水管が破裂し水が噴き出して弾け飛ぶマンホールの蓋のように、パンドラの箱が開けられたのだ。勢いよく弾け飛ぶように、ザバッと僕は立ち上がった。


千佳ちか、どうしたんだ? 肩まで浸かって温まらないと……」


 と、トナカイさんは言う。僕の顔を見上げながら。なるべく……見ないようにしているのがわかる。僕の身体。十三歳でも、それよりも幼く見える僕の裸体を……


 でも、変わりたいから。


 あの事件を越えるために、僕は女になる。フラッシュバックを超える程に。


「ティムさんにとって、僕は子供かもしれないけど……

 ちゃんと見て。僕だって女だよ。お母さんと結婚する前に、僕を女にしてほしいの」


 震えているのはわかる。全部を見てくれているから。僕の包み隠さず全部。


 そしてトナカイさんの名前、ティムさんという名前なの。僕のパパになる人だから。



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