Special days 09 すくっと立ち。
――僕は、このお部屋の真ん中に立った。トナカイさんは寛ぎの中だけれど。
「先に、入ってるね」
と、その言葉を残した。
今の僕には精一杯のその言葉。そして歩み行く、お外へ……
このお部屋に備えられている露天風呂へと。スルッと帯……
浴衣も素肌を滑るような感じで脱げてゆく。生まれたままの姿。一糸まとわぬ姿。僕の裸が露わとなる、ガラッと開ける硝子戸。そこに見える絶景と一体になれる、まるで風絵画のように溶け込む。深々と静かに舞う白い雪……
白い素肌とも共感する。寒さも感じるけれど、その心は興奮で温まっていた。
静けさの裏側にある、白と黒の激しきコラボの中で……
黒は夜の帳。お月様をも覆ってしまうほどの、冬の夜空。
白はキラキラとシャンデリアを思わせる輝き。少しばかり素肌に当たって溶けゆく。顔にもお腹にも。僕は、お空を見上げたまま夢中になっていた。雪が舞う程の寒空を、全裸で見上げる矛盾した感覚ではあるものの、これから想像できるパンドラの箱を開けようとする覚悟を心地よいものにしてくれる……少女から、女へ変わる未来予想図を想像し。
キュン……
と胸の奥で鳴る音。ちょうどその時だ。ガラッと……
響いた。硝子戸の開く音が。その音を奏でたのは僕ではなく、もちろん僕ではなく、
「まだ入ってなかったのか?
……こんなに冷たくなって……」
と、握られる手。そこからグッと寄せられる身体……
舞う雪と湯煙の、白の共演がオブラートに包んだ。これから開かれるパンドラの箱を美化しようとして……美しきターニングポイントへと変えてゆくの。そのムードに合わせるように便乗して、高鳴る鼓動。寒さの中で裸体を包む裸体。僕と違う体温で包まれる。
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