Special days 05 出会いの場所。


 ――夏から冬に季節は移り変わっても、僕らが出会った場所は変わらない。



 そして今、この人と旅に出る。


 最果てへの誘惑。その時にわかるのかもしれない。お母さんの気持ち……


 この人と出会う前は、お母さんとは険悪なムード。喧嘩まで至らないけど、会話もままならなかった毎日。学校でいじめに遭っても相談なんてできなかった。不登校も、初めは内緒にしていたの。あの事件が起きるまでは……今でも、魘される時がある。眠っていなくても。あの事件、あの事件は……もうその場面は、記憶の奥深くに沈んで、漠然とした恐怖に姿を変えて、朝が来れば、吐き気も何もかもが吐き出されてしまうような……


 バツだね、上手く言えない。


 この人は、ある意味で命の恩人。今はもう命の恩人だ。


 フラッシュバックは、リストカットに及んだ。生死を彷徨ったのが、この年の夏の終わり。この人が呼んでくれた救急車。だから僕は、今ここにいる。


 心臓の鼓動も息遣いも……


 何よりも、二度とないと思っていたパパが手に入る。僕にはビッグなサンタさんからのプレゼント。だから、この人の名はトナカイさんなの。僕を導いてくれて、僕が一番欲しかったものをプレゼントしてくれる。明日への、生きるモチベーションを蘇らせたの。


 ――最果ては、

 最果てではなくスタートライン。この人と二人三脚。素敵なお友達だよ、最後まで。


 だから梅田を後にした。梅田の地下……


 ここからが旅の始まり。遠い電車に搭乗する。夕映え美しき今この時に。朝一番の群青色から茜色への変化を、梅田で過ごしたことになる。想い出が刻まれる場所だ。次に訪れるのはイブ。僕らはお友達から一時の恋人を経て、その心で身も溶け込む甘い旅路に。


 梅田から大阪へと色を変えて、

 サンダーバードで門出となる。短編のように短い物語。儚い旅をロマンチックへと。



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