Special days 03 そして雪国へ。


 ――朝一番のホーム。白い息が舞う冷たい静寂の中に僕らはいた。



 見上げるお空は、まだ群青色……


 ベンチに座っている僕らを照らす朝日は、まだ彼方に。或いは遥か下にいる。宇宙のように吸い込まれそうな群青色は、僕を最果てまで誘惑しそうな感じ。時が無限にあるのなら、最果てを観たいと思うけど、僕らにはタイムリミットがあるの。


 今はもう十二月の風……


 クリスマスキャロルが流れる頃に、その身を置いていた。


 耳をすませば聞こえてくる。寒さを自覚する程の季節感。ガタガタと震える。ちょっぴり涙も溢れてきた。すると温かくなる、不意に。トナカイさんが大きいコートで僕を包んでいた。鼓動や息遣いも聞こえるに至るまで、ギュッと抱き寄せた。僕の身体さえも。


 僕らはベンチに座っている。


 トナカイさんは黒縁眼鏡……その奥に、優しい目をしている。百六十五センチの中肉中背の身体は、僕を包むに充分な温もり。僕は百四十少々の、中学生にしては小柄な方。


 因みに一年生。でも、小学生と間違われる。


 傍から見た人はどう思うのかな? 僕とトナカイさんの関係は。誰も誰も誰も……


 お友達とは思わないよね。まして恋人には見えないよね? まして……どう映るのだろうか? 年の離れた兄妹ってところだろうか? それとも親子に見える? 僕は今、私服だから小学生に見えるから、とてもとても年の差が十六歳あるとは思えないよね……


「寒いか、千佳ちか。もうすぐ始発が来るから」


「大丈夫。初めは梅田だね、梅田の地下。僕らが出会った場所だから」


 ……そこが出会いの場所だった。この旅は、追想の旅とも言えるの。想い出の糸を繋ぎとめるための。この時はまだ知らなかったの。この旅の意味するもの、それは僕が思っている以上に、重要なことを含んでいることを。想いは繋がる、ネットのようにも。


 そして、この線路のようにも。……僕らの最果ては、きっとそこにあるのだと。



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