第4話 いざ変身、万倉なすダークパープル!

「い、いや、確かに生まれも育ちも関係ないっちゃぁないけど。えっ、でも、えっ?」


 何で俺がざみんにビンタされてんの?


「宇部市がここまで盛り上がったの、一体誰のお陰だと思ってるまりん?!」


 誰のお陰かと言われたら、まぁ、このクソアマチュアおばさん、ということになるのだろうか。いや、でも、恩義を感じるほど盛り上がったか?


「エビ太郎がそんなんじゃ、私達もう一緒に戦えないまりん!」

「がざみん……ってちょっと待って。俺達いつから戦ってた?! ていうか誰と!? ただのゆるキャラじゃなかったっけ!?」


 思わず突っ込む俺の目の前で、ゆっくりと課長が立ち上がる。そして、スーツのジャケットを、バサッ、と投げ捨てた。えっ、何?! 何の茶番が始まるの?


「ただのゆるキャラとは仮の姿……しかしてその実態はァ!」


 待って。

 課長はゆるキャラでも何でもなかったですよね?!

 あと、ジャケットを脱いだところでただのワイシャツ姿ですけど!?


 あっ、脱ぐんだ!

 ここからお着替えするんだ!

 いや、そういうのはあらかじめ中に着込んでおくとかそういうのが必要だったんじゃないですかね。


 待つこと数分、何とも言えない黒Tシャツに着替えた課長が、ごほん、と咳払いをして、仕切り直しとばかりに声を上げる。


「しかしてその実態はァ!」


 たぶんここが編集点なんだろうな。おい、カメラはどこだ。


「万倉なすダークパープル!」


 あっ、何!? 課長が敵側に寝返るダークパープル枠なんですか?! そういやさんざん熱い熱い言ってましたもんね?! やりたかったんですね?! でも、いまのところゆるキャラでもなければヒーローでもない、ただのダークすぎて遠くから見たらただの黒いTシャツを着たおじさんですけど、大丈夫ですか?! 娘さん泣きませんか?! おい、クソアマチュア作家! 画面の向こうで腹抱えて笑ってんじゃねぇぞ! 一連の流れ全部お前の企画だろ! 俺達の課長をこんなのにしやがって!


「万倉なすダークパープルは、元々私達『』側のキャラだったまりん。だけれども、戦いの中で一度は『宇部ンジャーズ』側に寝返ったりもしたまりん。でもまた戻って来てくれたまりん!」


 何その設定! 何? 何回出戻る気でいるの、この人!?

 ていうか、いまさらっと出て来たけど『甲殻躍動隊』って何?! 機動隊じゃなかったら有りとかそういう話ではないからね?! そんで結局『宇部ンジャーズ』採用されてるし! マーベルを敵に回したらアカンって話じゃなかったっけ!?


 あと、万倉なすは甲殻類の仲間ではないしね?! 野菜だよ!?


「エビ太郎、君の時代はもう終わったんだ。これからはこの万倉なすダークパープルとがざみんの時代なのだよ」

「えっ、そういう展開になるんですか?!」


 エビ太郎がいなくなったら『甲殻躍動隊』の看板は下ろす感じになると思いますけど?! それにどうせまた宇部ンジャーズ古巣の方に戻るんだろ?


「君に残された道は一つだ」


 厳かにそう言って、課長――いや、万倉なすダークパープルはPCを指差した。諸悪根源、宇部松清氏がこちらをじっと見つめている。その手にあるのは、スケッチブック。お世辞にもきれいとは言い難い字ででかでかと『爆発からのエビフライエンド』と書かれている。


「……は?」

「大丈夫、ちゃんとカラッと揚がるようになってるから」

「どういうことですか?! 爆発と揚げ物は火薬の量と油の量が違うでしょ!」

「問題ない。着ぐるみなら用意出来てる」

「そんな、下っ端を通さずに、課長がそんな面倒な手続きを……?」

「面倒な仕事を押し付けられがちな下っ端はエビ太郎だけじゃないまりん。私がいるまりん!」

「が、がざみん、裏切ったな!」

「ごめんなさいエビ太郎。だけど、こうするしかなかったまりん」


 それも宇部市のためまりん!


 その言葉と共に、目の前が光に包まれ――……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る