第二章 Part2

ユキは目の前にあるドアの前まで行き、ドアを開けようとした瞬間、部屋の外から銃声が聞こえた。


「っ!?」


ユキは、この施設にいるであろう敵に気づかれないよう、ゆっくりとドアを開けた。


「…」


声を出さず、慎重に動いた。行く道に曲がり角があれば、しっかりと敵がいないか確認しながら、施設を歩きまわった。


「…(ここもいない)さっきの銃声、一体何が」


「キャー!」


「っ!」


ユキは遠くから、女子の叫ぶ声が聞こえ、その方へと向かった。


「…」


角を曲がろうとした時、曲がった先に、叫んだであろう女子と白衣を着た男がいた。ユキは気づかれぬよう、一旦角に隠れた。向こうを覗き、どうすれば良いかを考えた。何せ白衣の男が拳銃を持っていたからである。


「や、めて、殺さないで」


よく見ると、その女の子の服は、少し血に染まっていた。恐らく目の前で誰かが殺されてしまったのだろう、ユキはそう推測した。


「(っどうすれば、!?そう言えば)」


ユキはこの世界に帰ってくる前、つまり向こうの世界で、アスタとある話しをしたことを思い出した。


〈回想〉


「…あ、ユキ、ちょっといいか」


「えっ、うん」


二人はミユキとヒナの元から少し離れた。


「どうしたの?アスタ」


「実は、ユキには言わなきゃいけない事があるんだ」


「ボクに?」


「あぁ」


「ユキ、ユキには、この世界から帰った後の事を話しておきたいんだ」


「帰った、後のこと」


「あぁ、ユキ、これを飲んでくれないか」


「?コレは何?アスタ」


「コレは、向こうの世界に戻っても、一定期間の間なら、向こうでも魔力が使えるっていうドリンクなんだ」


「そうなんだ。でも、どうしてコレを?」


「イナイさんに言われた事があってな、仮に向こうの世界に帰れても、ゲータに操られた人間に襲われる可能性があるって。しかも相手は恐らく武器を持ってる、だからコレを飲んで対抗しようって訳なんだ。もちろん殺す為じゃない、相手を気絶させる程度でいい、俺も戻ったら対抗するが、万が一俺が戻れなかったら、ユキ、君に全てを託すことになってしまうけど」


「え…アスタが、戻れないってどういう事?」


「相手はゲータだ。どんな事をしてくるか分からない。万が一も考えないといけないんだ。でももちろん、俺は勝って、皆を帰して、俺も帰るつもりでいる。でも、でももし、俺が帰れなかったら、ユキ一人でも戻ったなら、皆を、守ってほしい」


「アスタ…」


「…」


「うん、分かったよ」


「ユキ…」


ユキは、アスタが向こうへ帰れないと言うことを聞いて、不安になったが、アスタがこうして、何でも一人で背負ってきたアスタが、自分に頼ってきてくれている、その事にユキは嬉しさを感じ、ドリンクを飲んだ。


「これでいい?」


「あぁ、ありがとう、ユキ」


「うん」


「じゃあ、戻ろう。二人が心配するからな」


「アスタ」


「ん?」


「…絶対、勝ってよね」


「おう!」


ユキは、勝ってほしいという気持ちと、アスタも帰ってきてほしい。その二つの気持ちがあったが、帰ってきてほしいに至っては、アスタの覚悟を聞いた手前、言うことができなかった。だが、ユキは心のどこかで信じていた、きっとアスタも帰ってくると。


そして話し終えた二人は、ミユキとヒナの元に戻り、四人それぞれが、己の責務を全うした。そしてこのやり取りを思い出したユキは、拳銃に対抗する為、向こうの世界でユキが使っていた剣を出現させることができるか、試してみることにした。


〈現在〉


「…」


集中するユキ、女の子を早く助ける為、時間がない中、本来であれば誰もが焦ってしまう中、ユキは焦らず、集中し、剣を出現させることに成功した。


「(よし、できた)」


剣を出現させることができたユキは、静かにゆっくり接近して助ける方法より、バレてもいいから、急いで近づき、女の子を助ける方法を選んだ。


「死ね」


「いや、いやー!」


白衣の男が、拳銃の引き金を引こうとした瞬間、後ろからユキが男に近づき、剣で気絶させた。


「…ふっ!」


「うっ!」


「え…」


「大丈夫」


「…」


「…ごめん、キツいよね、こんな状況だし。でも、ボクは君の味方だから、安心して」


ユキはこんな状況でも、笑顔で少女に答えた。そうすることで、この少女も、安心して、話すことができた。


「は、はい」


「…ボクの名前はユキ。君の名前は?」


「私の、名前は、…真由美(マユミ)です」


「真由美(マユミ)ちゃんか、可愛い名前だね」


「…ありがとう、ございます」


「真由美ちゃん、ボクは今から、他にも真由美ちゃんみたいに、困っている子がいないか見てくるけど、真由美ちゃんはどうする」


「え、私、私は」


「良かったら、一緒に来ない?」


「え…」


「もちろん、無理強いはしないけど」


「わ、私も、ユキさんと、連れていってくれませんか」


「分かった。一緒に行こう」


「はい!」


ユキと一緒に、真由美も行動することになったが、ユキはそれで安心していた。なぜなら、真由美と共にいた方が、真由美の事を守れるからだ。でもそんなユキも、心配している点があった。


それは、アスタやサオリに早く会いたいというのもあるが、妹であるミユキが無事かどうかが、ユキが一番心配している点であった。


「(ミユキ、無事でいてね)」


そして、ユキが少女を救った同じ頃、別の部屋で、ミユキも目を覚ましていた。


「…!?ここは…ここが、現実世界」


ミユキはカプセルから起き上がり、記憶を思い出していた。


「…お姉ちゃん、アスタさん、それに、フェイさん、サオリさんも…これは、向こうの世界で思い出した記憶だ、?」


ミユキは、向こうの世界で思い出した記憶を改めて、現実世界に戻ってきたことにより、思い出していた、だが、もう一つ、ミユキが思い出せなかった記憶も、思い出していた。


「なに、コレ」


それは、ミユキを庇って、姉であるユキが、母親の美智瑠に虐待されていた時の記憶だった。

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