第一章 Part14
「ちょうどいい、小僧、お前に教えてやる」
「?何を」
「イナイとかいう男を殺したヤツの正体だよ」
「…」
「それは、今お前の目の前にいるユウマだ」
「っ!?なん、だって」
「…」
「そうなのか、ユウマさん」
「あぁ、僕が殺した」
「!」
「…」
「何で、何でイナイさんを殺した!あの人があんたに何をしたんだよ!」
「命令だったからね」
「命令、だと」
「あぁ」
「命令で、なんの罪もないイナイさんを」
「…」
「っ!ハァー!」
アスタはユウマに向かっていき、三連撃の技を使ったが、全てかわされてしまう。
「遅い」
「ウッ」
圧倒的な戦力差に絶望的なアスタ。だがそれは、ユキとミユキも同様であった。
「ハァ、ハァ」
「ガァー!」
「っ!?んっ!」
ユキは何とかモンスターからの攻撃をかわし、剣を振り、モンスターを倒した。
「ハァ、ハァ、ハァ」
ユキとミユキは、最初こそ敵を圧倒していたし、一体の強さだけで言えば、明らかにユキの方が実力は上だ。だが、百をも超えるモンスターの数に、ユキとミユキの二人で対抗するのにも、限界があった。
「ハァ、ハァ」
迫り来るモンスター達。さすがのユキも限界が近づいていた。
「ハァ(このままじゃ)」
「グゥー」
「ハァ、ハァ」
「グゥー、ウガー!」
モンスターは、手に持っていた先が太い木の棒を持ち、ユキに攻撃しようとする。
「んっ」
ユキは意識が朦朧としている状態で、剣を盾としてガードする態勢をとった。とその時、後ろから炎攻撃の魔法がモンスターを襲った。
「っ!?」
ユキは後ろを振り返る。振り返ると、そこには百名程の剣士達と第二十階層にいる、姫直属の騎士達が、ユキとミユキを助けに来てくれたのだ。
「みんな」
「みなさん」
「ガァー!」
「っ!キャッ!」
「っ!ミユキ!」
ミユキがモンスターに倒されそうになったその瞬間、一人の剣士が、モンスターを一刀両断し、ミユキを救った。
「ミユキ、大丈夫?」
「うん、私は大丈夫」
「良かったわ、間に合って」
「っ!?サオリちゃん!」
なんと、ミユキのピンチを救ったのは、ランキング第三位のサオリだった。
「ユキちゃん、無茶して。何かあったなら、頼ってくれて良かったのに」
「…ごめんね。サオリちゃん」
「ううん、二人が無事で良かった」
「ありがとうございます。サオリさん」
「ホントにありがとう、サオリちゃん。でも、どうしてここに?」
「ヒナちゃんって言う子がね、私達に助けを求めてきたの」
「!?」
「ヒナちゃんが」
そう、ヒナはゲータによって、ワープの力で飛ばされてしまったが、飛ばされた先は、第一階層のテレポート盤の前だった。そしてヒナは、アスタの所へはもう行けないと悟り、ユキとミユキを助ける為、各階層の剣士達、姫直属の騎士達に助けを求めて動いていた。
「うん、もう大丈夫。皆来てくれたから」
「うぉー、祭りだ祭りだ」
「これは斬りがいがありそうね」
「何としても、あのモンスター共から、この世界を守るのだー!」
「うぉー!」
「みんな…ふぅ、ボク達も負けてられないね、行こう!ミユキ、サオリちゃん!」
「えぇ!」
「うん、お姉ちゃん!」
こうしてユキ達は、ヒナのおかげもあり、窮地を脱することに成功した。そして、残るアスタはと言うと。
「んっ、ハァー!」
「んっ」
相手がランキング第一位のユウマということもあり、なかなか決着がつかずにいた。だがアスタもそろそろ勝負をつける為、剣を強く握り、構え集中した。
「ハァー」
「っ」
「ハァー!」
まだ覚醒状態ではないが、それでも、剣や足に魔力を込め、ユウマに向かっていった。
「っ!」
「…」
「んっ」
二人はまた一旦距離をとった。
「…!?」
「ハァー」
アスタはもう一度集中し、覚醒状態を身に纏う為、さらに集中した。
「んっ」
「ハァー!」
アスタは集中して集中して、ようやく覚醒状態へとなることに成功した。
「それが、覚醒状態か」
「行くぜ」
アスタは覚醒した状態で、ユウマに向かっていった。
「んっ、重い」
「ハァー!」
「うっ、うわっ!」
ついにアスタは、ユウマに打ち勝ち、ターゲットをゲータへと変更した。
「っ!ハァー!」
「っ!?くっ」
ゲータはまたバリアを張ったが、覚醒状態であるアスタからすれば、ゲータのバリアは、簡単に破れた。
「まさか、そんな」
「ハァー!」
「ふっ、なんてな」
バリアを破られ、もう手がないと思われていたゲータだったが、ゲータはまだ奥の手を残していた。
「ハァ!」
「ウッ、ぐっ」
アスタはゲータの作った重力の球体の中へと閉じ込められてしまう。
「うっ、くっ」
「それで勝ったつもりでいたようだが、まだまだだな」
「アー、うっ」
アスタは重い重力の攻撃に、気を失ってしまった。当然、覚醒状態も解除されていた。
「ふっ、大したことなかったな」
「…」
「あとはコイツを、ウッ」
アスタを捕まえ、勝ち誇っていたゲータ。召喚していたモンスターも消し、完全に喜びに浸っていた、だが喜んでいたのもつかの間、ゲータは剣で身体を貫かれていた。
「グッ、貴様、何のつもりだ」
なんと、ゲータに剣を刺していたのは、ユウマだった。実は数分前、アスタと剣を交えていた時、アスタとユウマは、ゲータを倒す為、二人はバレないよう、話し合っていた。
〈数分前〉
「くっ」
「(提案がある)」
「っ!?」
「(ゲータを倒す為、協力してくれ)」
「(…何を言って)」
「(今のままでは、到底ゲータには敵わない、だから、僕が隙をつくる、僕が合図したら、君は覚醒状態になり、ヤツを、ゲータを倒すんだ)」
「(アンタを信用しろと)」
「(信用できないのも、無理はない。だが僕もケイルさんが作ったプログラムの一部なんだ)」
「!?」
「(言いたいことはあるだろうが、今は協力してくれ)」
「(…分かった)」
アスタは完全に信用したわけではないが、ゲータを倒す為、一旦協力することにしたのだ。
「んっ」
「…!?」
「ハァー」
「んっ」
「ハァー!」
「それが覚醒状態か」
「行くぜ」
そう、これらのやり取りや、アスタがゲータに捕まったのは、二人による演技だったのだ。
〈そして数分後の現在〉
「この、裏切り者がぁー!」
ゲータは両手でアスタが捕らえられている球体を維持していた為、ユウマが刺している剣を抜くため、もう一度モンスターを召喚するため、一旦片手を球体の維持から外し、剣を抜こうとしたが、ユウマはさらに追い討ちをかける為、剣に魔力を流し込み、ゲータを攻撃した。
「ハァー!」
「うっ、アー!」
ユウマの攻撃は、ゲータにとても通用していた。ランキング第一位の力はやはり伊達ではなかった。だがもう一歩っという所でユウマはゲータによって、両手で振り払われてしまう。
しかし、それも作戦の内だった。ユウマ程の人間は、片手では振り払えないと判断し、両手を使ったゲータだが、そうすることで、アスタへのマークはなにもなくなり、ゲータに隙ができた。
「今だ!」
ユウマからの合図と同時に、アスタは演技を止め、覚醒状態に入り、球体を破壊し、隙ができたゲータの核めがけて、剣を刺した。
「ハァー!」
「っ!?う、あー!」
「ハァー!」
「この、この俺が、こんなヤツらにー」
ゲータはまた両手を使い、アスタを重力の球体の中に、再び閉じ込めようとするが、そこでまたゲータに振り払われたユウマが戻って来て、アスタの手助けをした。
「ハァー!」
ユウマもアスタ同様、核めがけて剣を刺し、そこに魔力を流し込んだ。
「うっ、貴様らー!…お前ら、コイツらを止めろ!」
ゲータはもう一度モンスターを召喚し、アスタとユウマを倒すよう命令を出すが、アスタの覚醒状態に最強剣士ユウマの領域に、モンスター達は動くことができず、その場にとどまった。
「ハァー!」
「ハァー!」
「っ」
ゲータは、最後の抵抗として、ゲータも剣を出現させ、ランキング第一位のユウマの腹を剣で貫いた。
「んっ、ハァ!」
「うっ、ぶは」
「っ!?」
「止まるなアスタ!このままヤツを、ゲータを倒すんだ!」
「くっ、ハァー!」
「う、アー!」
ついに、アスタとユウマ、二人の力で、ゲータを倒すことに成功した。そしてゲータに召喚されたモンスター達も、キューブの姿へと変わった。
「…ハァ、ハァ、ハァ、か、勝った」
「やっ、たな」
ユウマはゲータにやられた腹を抑えながら、地面に倒れた。
「っ!?おい!」
アスタは覚醒状態を解き、ユウマの元へと駆け寄る。
「うっぶはっ」
「くっ、早く、回復魔法を」
回復魔法をかけようとしたアスタだが、ユウマはその手を止め、こう答えた。
「いい、いいんだ。僕は、これが作戦とは言えイナイさんを殺してしまった。その罪を、今償わなきゃいけない」
「そんな…で、でも、アンタがいなきゃ、ゲータを倒せなかった。アンタがいたから、俺らは勝てたんだ」
「…そう言ってくれると、嬉しいな」
相当なダメージを負ってしまったユウマには、もう時間がなく、既に白い光に包まれ始めていた。
「っ!」
「そんなに驚くことではないだろう、こうなる事が、僕に定められた運命だったんだ」
「そんな運命なんて、俺が変えてやる!今からでも回復を」
「もう間に合わない」
「ふざけんな!アンタには、聞きたい事、言いたい事があるんだ、だから、死ぬなよ」
アスタは、また救えなかった命が目の前にある為、悔しく思い、涙を流す。
「…君にそう言われて、僕は嬉しいよ。…時間みたいだ」
「っ!」
「君は英雄だ。無事この世界を守った。君になら、この思いを託してもいい。この世界を守ってくれて、ありがとう。またここや別の世界が危機に陥ったなら、君が救ってくれ」
「…」
「じゃあ、またもしどこかで会えたら、また会おう。その時は、友達として」
「頼む、頼むから、消えないでくれ」
「じゃあな、英雄、アスタ」
そう言うと、ユウマは完全に白い光に包まれて、消えていってしまった。
「…」
放心状態になってしまったアスタだが、ユキやミユキも含め、この世界に来た人達を、ゲータを倒した今がチャンスという事で、コンソールを探し、見つけたので、皆を逃がす為、コンソールを起動させ、作業を始めた。
そして、まずは皆からと言うことで、アスタを除いた二十人のプレイヤーを選択し、ゲータの支配下にならないよう、ゲータの血が混じった魔力供給を解除し、アスタを除いた二十人のプレイヤー全員を、この世界から逃がすことに成功した。
第一章 完
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