第一章 Part13

アスタがイナイから聞いた、第一負荷実験の話をしようとしたその時、階層全体に警報音が鳴り響いた。


「ん?なんだ」


「っ!?まさかこれは」


ヒナはその警報音に心当たりがあった。


「分かるのか、ヒナ」


「あぁ、これは、第一負荷実験だ」


「っ!?嘘だろ、こんなに早く」


「皆、とにかく外へ出よう!」


「お姉ちゃん!まだ怪我が完治していないのに」


「これぐらい、ボクは大丈夫だよ。そんなことより、早く外へ出ないと」


「あ、お姉ちゃん!もう!」


「アスタ!私達も行くぞ!」


「あぁ、っておい、ヒナもまだ完治してないだろ」


「私はプログラムだぞ?このくらい、少し休めば大丈夫だ」


「…無茶はするなよ」


「あぁ、分かってるさ」


二人はユキとミユキの後につづき、病室を出て、外へと向かった。外へ出ると警報音はまだ鳴り続けていた。そこには、アスタ達以外にも、たくさんの人達が警報音を聞き、外へと出ていた。こことは別の階層でも、ランキング第一位のユウマ、ランキング第三位のサオリも、この警報音を聞き、外へ出ていた。


そして、アスタ達がいる階層で、人がたくさん集まってきたその時、警報音が止まった。それと同時に、空から声が聞こえた。


「これより、第一負荷実験を開始します。繰り返しお知らせします。これより、第一負荷実験を開始します」


「第一負荷実験?なんだよそれ」


「そんなこと聞いたことねーぞ」


「そうよ、何なのよそれ」


「皆さん、困惑していますね」


「ヒナちゃん、第一負荷実験って、一体何が起きるの?」


「第一負荷実験は、普段ダンジョンにいるモンスター達が、ダンジョンから解き放たれ、この地へと踏み入り、我々とモンスター達を戦わせ、我々がどこまで戦えるかを調べる、言わばそう言う実験だ」


「そんな事調べて、ゲータはどうするの?」


「この実験を行なうことで、ゲータの戦力になるかを確かめるんだ」


「戦力?」


「あぁ、その戦力が一定数いれば、実験自体が終了し、ゲータの目的である、世界を破壊するという計画が始まってしまう」


「なら、そんな計画、絶対止めないとね」


「でも、街の人達を守らないと」


「あぁ、街の人達を守りつつ、この計画も止める!」


「それなら、実験の後じゃ遅い、この実験は、ゲータを倒すことができれば、その場合でも実験は終了する。実験中に上まで行き、そこでゲータを倒す他、道はない」


「そうか、なら俺が上まで行って、ゲータを倒す」


「私も行く、アスタだけでは少し心配だからな」


「…分かった。行こう、ヒナ」


「気をつけてね、二人共。モンスター達は任せて」


「あぁ、二人も気をつけて」


「うん、任せて」


「はい、私とお姉ちゃんなら大丈夫です」


「…あ、ユキ、ちょっといいか?」


「え、うん」


アスタとユキは、ミユキとヒナから、少し離れた。


「どうしたの?アスタ」


「実は、ユキには言わなきゃいけない事があるんだ」


「ボクに?」


「あぁ」


アスタはユキに、アスタが大事だと判断した話をした。話を終え、二人は戻ってきた。


「悪い、今終わった」


「二人で何の話をしていたんだ?」


「ちょっとな、それよりヒナ、早く二十一層行こう。間に合わなくなる前に」


「…あぁ」


「え、二十一層!?二十層が一番上じゃないの?」


「それは元々のゲーム上の上限なんだ、この世界では、第二十一階層が一番上だ」


「そうなんだ、あ、ミユキ、ボク達も行こう」


「え、…うん」


「ユキ、ミユキ、無事でな」


「うん!アスタとヒナちゃんも」


「あぁ!」


ミユキもヒナも、二人が何の話をしていたか気になりはしたが、それは一旦心にしまい、アスタとヒナは、ゲータの所へ、ユキとミユキは、ダンジョンの方へと向かった。アスタとヒナは、ゲータの計画を阻止するため、テレポート盤へと向かい、普段とは違う道で、第二十一階層へと向かうことにした。


「ん?アスタ、アスタが向かっているから、合ってると思ってついてきたが、ここからどうやって二十一階層に行くつもりだ?テレポート盤じゃ、二十階層までしか行けないぞ?」


「大丈夫、多分上手くいく」


「?」


テレポート盤に着き、二十階層のボタンを押し、第二十階層へと着いたアスタとヒナ、だが、ダンジョンに入るための入口は、第一階層しかない。そんな中、アスタはある行動をとった。


「ところで、さっきユキとは何の話をしていたんだ?」


「あぁ、ちょっとな。今後の事について、少しな」


「今後…」


「あぁ」


「…」


ヒナは疑問に思いつつも、とりあえずは考えないことにした。


「着いた。入口以外のダンジョンって、こんな感じなんだな」


「着いたって、どこにも入口はないぞ、どうするつもりだ?」


「なぁに、入口がないならつくればいい、俺とヒナが入れる入口を」


「まさか、壊すつもりか?このダンジョンの壁を」


「あぁ」


「これは破壊不能オブジェクトだぞ、壊せる訳がない」


「そんなの、やってみなきゃ分からないだろ」


「…ホントにやるつもりなのか」


「例え破壊不能オブジェクトでも、それは元々のゲーム上の設定。なら、イレギュラーなこの覚醒の力を使えば」


「っ!?」


「ハァー」


「なるほど、あの力でこの壁を、一時的かもしれないが、破壊できる、のか」


「ハァー」


アスタは以前よりも、集中の仕方が上手くなり、今回はすぐに覚醒の力を呼び覚ますことに成功した。


「ハァーア!」


アスタは黒の髪や瞳が、白い髪に赤い瞳へと変化した。


「やるか」


アスタは足や手、剣に魔力を込め、集中し、ダンジョンの壁にどでかい穴をあけた。


「ハァー!」


「ホントに、やった。まさか成功するとは」


「よし、ヒナ。今のうちに入るぞ」


「あ、あぁ」


二人は壁が完全に修復される前に、中へと入った。


「ふぅー、何とか上手くいったな」


「あぁ、まさかダンジョンの壁に穴をあけるとは」


「ハァ、ハァ」


「おいアスタ、大丈夫か」


「あ、あぁ。この力はやっぱり凄いけど、この状態でいるのは、結構キツイな、一旦解くか」


アスタは覚醒状態を一旦解除した。


「この力を使えるのは、あと一、二回が限度だな」


「なら、その力はゲータを倒す時までとっておいた方が良いな」


「あぁ、そうだな」


二人はそう会話を終えると、大きな扉の前に立った。破壊した壁は修復され、元に戻った。


「大きい扉だな。…さて、パスワードは、どこで打つんだ?」


「任せろ」


ヒナは扉に手をあて、扉のデータからパスワードを見つけ、それを入力し、扉が開いた。


「おおー、ヒナ、スゲーな」


「まぁ、このくらいはな」


「じゃあ、行きますか」


「あぁ」


その頃ユキ達は、ダンジョンの前に着き、これから来るモンスターの襲撃に備えていた。


「…」


「お姉ちゃん、さっきアスタさんと何を話していたの?」


「あぁ~ちょっとね、今後の事について言われてね」


「?」


ミユキもヒナ同様、気にはなったが、今は考えないことにした。


「…っ!キタ」


ダンジョンの中から、たくさんのモンスター達がダンジョンの外の地へと踏み入り、ユキとミユキの所へと向かってきた。


「ガァー」


「っ!」


ユキは剣を握り、ミユキは能力の準備を終え、モンスター達に向かっていった。


「ハァー!」


ユキは先頭にいたモンスターからの攻撃を避け、モンスターの核めがけて、剣を振るい、まずは一体のモンスターを倒した。そして次から次へと迫り来るモンスターを、ミユキの鎖の能力でモンスター達の動きを封じ、そこにユキがモンスターへと迫り、モンスター達の核を破壊していった。


「(勝てる、ボクとミユキなら。アスタ、そっちは頼んだよ)」


次々とモンスター達を倒していったユキ。その頃、アスタは。


「真っ暗だな(どこに、ゲータがいるんだ?)」


「…っ!?アスタ!」


「っ!」


アスタとヒナは、敵の気配を察知し、警戒態勢に入った。


「よく来たな」


「…誰だ、アンタは」


「ふっ、我が名はゲータ。この世界を統べる者だ」


「…お前が、ゲータか」


「気をつけろアスタ、ヤツの魔力量」


「あぁ、確かに凄い魔力量だ。(でも、あの力を使えば、対した差じゃない)」


「ん?なんだ、その女は」


「…」


「この戦場に、女はいらない」


ゲータはそう言うと、ヒナをゲータのワープの力を使い、ヒナをこの場から離れさせた。


「っ!アスタ!」


「っ!ヒナ!」


「アスタ!」


アスタは必死に手を伸ばしたが、間に合わず、ヒナはワープにより、どこかへ行ってしまった。


「ヒナ…」


「邪魔者を消してやったんだ、感謝するがいい。それとも、貴様の親友のようにした方がよかったかな。無様に死んでいったヤツのように」


「っ!」


アスタはゲータのその言葉に我慢ならず、キレた。


「…」


「なんだ、その目は」


「お前だけは、絶対に、許さない!」


ヒナの事だけではなく、親友のフェイの事までの侮辱されたアスタは、完全にキレたが、理性はしっかりとコントロールしていた。


「お前を倒す!」


「私の前に、まずはコイツらを相手にするんだな」


そう言うとゲータは、能力を使いたくさんのモンスターを召喚した。その中には、モンスターではなく、フードで顔が見えない一人の人間も召喚していた。


「っ!」


「行け、我がしもべ達よ」


「ガァー!」


一人のフードを被った人間を除いて、召喚されたモンスター達は、アスタへと迫った。


「んっ」


アスタは覚醒の力を使う事なく、迫り来るモンスターを、確実に一体ずつ倒していった。


「ハァー!んっ!ハッ!ハァ!」


「ウガー!」


「ほう、なかなかやるな。だが」


アスタは確かに、確実に一体ずつ倒していったが、ゲータの能力によって、アスタが倒したモンスター達は、蘇生の力によって、復活してしまった。そしてアスタは確信した。


「(コイツらを倒しても意味はないな。元を絶たなきゃ)」


アスタはモンスター達の相手を止め、ゲータの方へと、足に魔力を込め、向かっていった。だが、その前に、ゲータに召喚された一人の人間が、アスタの前に立ち塞がった。


「くっ」


「中々やるね」


「っ!?その声」


アスタはその声に聞き覚えがあった。


「んっ!」


二人は一旦距離をとった。そしてフードを被っていた人間が、フードをとった。その素顔はなんと、ランキング第一位のユウマだった。


「…」


「何で、何でアンタが、どういう事ですか!ユウマさん!」


「簡単な話だよ。僕はこっち側なんだ。それだけの話だよ」


「くっ」


「ふっ、お前に人間が殺せるかな」


「(どうすれば、どうすればいいんだ)」


「そう言えば、何て言ったかな、アイツ」


「?」


「そうだ、思い出した。イナイとか言ったか?あの男」


「っ!」


「あの男も邪魔な存在だった。消えてせいせいしたわ」


「っ!」


アスタは思わず、ゲータに向かって一直線に飛んでいった。


「ハァー!」


「ふっ」


ゲータは余裕の笑みを見せた。


「っ!っ!?」


ゲータに剣を振ろうとした瞬間、ゲータの目の前が透明なバリアで守られているかのように、ゲータに剣が届かなかった。


「くっ」


ゲータのバリアに足止めを食らっていると、そこにユウマが入ってきてしまい、ゲータに攻撃が当たらずに終わってしまった。


「…」


「…」


「ちょうどいい、小僧、お前に教えてやる」


「?何を」


「イナイとかいう男を殺したヤツの正体だよ」


「…」


「それは、今お前の目の前にいるユウマだ」


「っ!?なん、だって」


「…」


「そうなのか、ユウマさん」


「あぁ、僕が殺した」


「!」

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