第一章 Part12

アスタは、この世界を知った経緯について、ユキとミユキに話すことにした。


「まず、俺がこの世界の秘密に気づいたって話だけど、きっかけは、フェイの日記に入っていた一枚の紙なんだ」


「紙?」


「あぁ、そしてその紙に書いてある場所に行ったら、イナイさんって言う人に会って、その人に教えてもらったんだ」


「そうだったんですね」


「うん、そしてイナイさんから、この世界の秘密と俺が忘れてしまっていた記憶を取り戻させてくれたんだ」


「…アスタさん、イナイさんとは、何者なんですか?」


「イナイさんは、この世界を、創造の力で、創った張本人、ゲータって言うヤツに、最も近しくなれた人が作った、プログラムの一部なんだ」


「プログラムの一部、ですか」


「あぁ、分かりやすく言うなら、ヒナみたいな感じだ」


「!?」


ユキとミユキは、思わず驚いた。


「アスタ、ヒナちゃんって、プログラムだったの!?」


「あれ、言ってなかったけ?」


「言ってないよー」


「私も初耳です」


「あはは、悪かった。でも、ユキとミユキなら、例えヒナがプログラムだと知っても、受け入れてくれると思って」


「アスタ…」


「まあ、確かに私やお姉ちゃんなら、プログラムでも何でも、今この瞬間を生きているヒナさんを見ていますから、信じますけど。そういう事は、先に教えてほしいです」


「あぁ、気をつけるよ」


「はい」


「…話が逸れちゃったな。そのゲータに最も近しくなれた人が作ったプログラム、イナイさんから、俺はこの世界の秘密と俺の中にあったホントの記憶を知ったんだ」


「そのイナイさんは、今どこにいるんですか?」


「それは…」


「アスタ?」


「イナイさんは、何者かに殺されてしまったんだ」


「!?」


「そう、でしたか」


「でも、どうしてイナイさんの事を?」


「それは…その」


「?」


「アスタ」


「ん?」


「ボクとミユキの記憶も、知ることはできる?」


「!もしかして、それを聞きたかったのか?ミユキ」


「はい、もしできるなら、今だけじゃなくて、昔の私、ホントの私と、向き合いたくて」


「なるほどな、分かった。やってみるよ」


「?何をするの?」


「ゲータ程ではないけど、俺がイナイさんからもらった創造の力で、前に俺がイナイさんに飲ませてもらったものを、創造の力で作ってみるんだ」


アスタは、前にイナイが殺される前にアスタに託した力の一つ、創造の力を、ゲータには遠く及ばないが、前に飲んだことがある飲み物、二つくらいなら、容易に作れると判断し、試したことはなかったが、やってみることにした。


「…」


アスタは目を瞑り、集中した。


「…」


形や味、飲んだ時の感覚を思い出してきた。


「…」


形が着々と完成していった。


「…っ!」


ようやくして、二つの飲み物が出現した。


「…これで、良いかな」


出現させた二つの飲み物を、早速ユキとミユキに渡した。


「ほい、ユキ、ミユキ」


アスタはしっかり、零さぬよう、手渡しした。


「ありがとう、アスタ」


「ありがとうございます。アスタさん」


「おう!」


「これで、記憶が」


「飲んだ時に、脳に強い刺激がくるから、そこは注意してくれ」


「うん、分かった」


「はい、分かりました」


二人は、アスタからの注意事項を聞いて、それに気をつけつつ、飲み物を飲んだ。


「…」


「…」


「!?」


二人は、アスタが言っていた通り、脳に強い刺激がきた。そしてその刺激の後に、二人が忘れされていた、記憶がフラッシュバックした。


「はっ!ハァ、ハァ、ハァ」


「二人共、大丈夫か?」


「うん、最初はビックリしたけど、何とか大丈夫」


「私も、何とか大丈夫です」


「…」


「?(ユキ、どうしたんだ?)」


「これが、ホントの記憶」


「私やお姉ちゃん、それに、アスタさんに、もう一人、この人は」


「その人はフェイだ。俺とフェイとユキとミユキ。俺達四人は、そこでは幼なじみみたいな感じだったんだ」


「なるほど、そうだったんですね。あと、サオリさんも」


「サオリ、さん?」


「はい、ランキング第三位のサオリさんです」


「!?あのサオリさんか」


「はい」


ミユキは、何故前にアスタに初めて会った時に、自分の名前をアスタが知っていたのか、ここで初めて知った。


「…」


「ん?お姉ちゃん、どうしたの?」


「え?あ、ううん、なんでもない」


「ユキ、大丈夫か?」


「うん、ボクは大丈夫」


「…」


「お姉ちゃん、ホントに大丈夫?」


「ミユキまで…大丈夫だよ」


アスタだけでなく、当然妹であるミユキも、姉であるユキの心配をしていた。


「…」


ミユキが思い出した記憶は、児童養護施設で自分と姉のユキだけではなく、そこにアスタとフェイ、それにサオリもいたと言う記憶だけだったが、ユキの思い出した記憶は、それだけではなかった。一度忘れて、もう一度呼び覚ました記憶は、その本人が強く印象に残っている記憶が思い出しやすい。


ユキがもう一つ思い出した記憶は、妹であるミユキと、姉であるユキが、母親から虐待を受けていたという記憶だった。何故ミユキがこの記憶を思い出せなかったかは定かではないが、少なくともユキからすれば、それは好都合だったかもしれない。


何故なら、答えは簡単、純粋に、こんな記憶をミユキまで思い出してほしくなかったからである。ユキ達の母親である美智瑠は、昔から虐待をするような人ではなかった。昔は娘である宮本結生(ユキ)と宮本美雪(ミユキ)、母親の宮本美智瑠、父親の宮本秀隆。この家族四人で、幸せに暮らしていた。


「おい結生、野菜ばっかりじゃなくて、肉も食べろよ?」


「もちろん、お肉も食べるって」


「お姉ちゃん、私ばっかりにお肉くれなくて大丈夫だよ」


「はは、もう結生ったら、皆のこと考えて」


「だって、皆で食べた方が美味しいもん。えへへ」


「え、そうなのか、結生。それは、すまないな」


「大丈夫だよ、お父さん」


この日は家族で鍋を食べていた。幸せな日々、だが、そんな幸せの日々も、長くは続かなかった。父親である秀隆が、仕事から車で帰っている時。


「う~ん、今日はすっかり遅くなっちまったな。よし、またお肉と野菜買って、鍋にするか」


車で帰っていた秀隆、すると前から、ブレーキの効かなくなった車が、真っ直ぐこちらに向かってきた。


「っ!」


父親の秀隆も、その車を避けようとしたが、その時の季節は冬で、車道が雪のせいで、上手くコントロールすることができなくなっていた。


「はっ、ハァー!」


そして、二つの車が衝突し、父親の秀隆は帰らぬ人となってしまった。当然、父親の秀隆がそんな事故にあってしまい、結生も美雪も悲しんだが、母親である美智瑠の方が、最もショックを受けていた。


そこからしばらくは、家族の中で、笑顔が飛び交うことはなくなった。だが、母親の美智瑠は、このままではいけない、また家族皆で笑いあいたい、そう思った美智瑠は、当時もうすぐ高校一年生になる結生と、もうすぐ中学二年生になる美雪二人を養う為、バーテンダーでの仕事を始めた。


最初は、時給が高いと言うこともあり、順調に進んでいたが、母親一人で育てると言う、不安やプレッシャーに押しつぶされてしまい、とうとう美智瑠は、娘に手を出してしまう。


「…」


仕事の疲れで、テーブルでぐったりしてしまっている美智瑠。


「お母さん、大丈夫?」


そんな母親が心配になり、声をかける結生。


「…」


「何か、私達にも手伝えることはない?」


美雪も、母親である美智瑠の、何か手伝いがしたいと、そう思い、声をかける。


「…」


「ボク達にも、何か手伝わせて。お母さん」


「じゃあ、私の代わりにお金を稼いできてくれる?」


「っ!それは…」


「無理よね、アンタ達、まだ中学生だもんね」


「…ごめん」


「でも、他の事ならできるよ。お金を稼ぐことは無理だけど、でも、他なら」


「…他なんてないのよ!お金を稼ぐことが、今一番大事なの!他?他って何よ。他なんてありゃあしないのよ、何もできないくせに、いちいちうるさいのよ!」


美智瑠は我慢しきれず、美雪を叩きにかかる。だが、それを見た結生は、美雪を庇い、自分が叩かれた。


「っ!」


「何よ結生、邪魔よ!」


「…」


「邪魔するなら、アンタも叩くわよ!」


「美雪が傷つかないなら、それで良いよ」


「何よ、生意気!」


そこから数十分にわたり、美智瑠による、ユキへの暴力、虐待が続いた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


ユキは母親である美智瑠に、叩かれるだけでなく、殴られたり蹴られたりと、結生に対する暴力も、エスカレートしていた。その為、顔や体や足に、痣ができてしまっていた。


「ホントに、生意気!」


「ハァ、ハァ、ハァ」


あと一歩で死んでしまう、その時、警察が家に突入してきてくれたおかげで、結生は一命をとりとめた。実は結生が虐待されている時、美雪が隠れて警察へ通報していた。結生が自分を庇って虐待されている光景を目の当たりし、美雪は迷わず、結生を助ける為、警察へ通報した。


「確保!」


「何よ!離してよ!」


「大人しくするんだ」


「離して!」


「暴れないでください!」


美智瑠は、突入してきた警官に連れていかれた。


「お姉ちゃん!」


「ハァ、ハァ、み、ゆき、大丈夫?」


「うん、私は大丈夫だよ。でも、お姉ちゃんが」


ミユキは、自分を庇って痣だらけのユキを見て、涙を流した。


「泣かないで、美雪」


「でも、私のせいで、お姉ちゃんが」


「ボクは大丈夫だから、だから、泣かないで。美雪が無事なら、それで良いんだ」


「お姉ちゃん!」


ミユキはしばらくの間、姉であるユキの胸を借りて、泣いていた。その後二人は、家の近くの児童養護施設へと引き取られ、そこでアスタとフェイに出会った。


虐待の件は、施設長と警察で話し合い、すぐに裁判を執り行うより、児童養護施設で精神が安定するまで、しばらくの間は行わないこととなり、時が経ち、二人に裁判の協力を申し出ようとした時に、今回の誘拐事件が起こってしまった。そして現在、それらを思い出したユキ。


〈現在〉


「ユキ、ホントに大丈夫か?」


ユキはこれらの記憶を一旦忘れて、今の問題に取り掛かる為に、気合いを込めて、ユキは自分の頬を、両手を使い叩いた。


「!?」


「お、お姉ちゃん?」


「うん、ボクは大丈夫。それより、これからどうするかを考えないとね、記憶も思い出したし」


「あぁ、そうだな」


「何か、イナイさんに言われた事ってある?」


「あぁ、ちょうど三ヶ月前、イナイさんに言われたんだ。恐らく五ヶ月後、ゲータによる実験。第一負荷実験があるって」


「なら、それをなんとしても阻止しないとね!」


「あぁ、そうだな」


「んっ、う~ん」


「あ、ヒナ。起きたか」


「アスタ、それに、ユキにミユキも」


「良かった…ヒナちゃんが無事で」


「はい、ホントに」


「三人で何か話してたのか?」


「あぁ、ちょうど今イナイさんに言われたあの話を」


アスタがイナイに言われた、第一負荷実験の話をしようとした時、階層全体に警報音が鳴り響いた。


「ん、なんだ」


「っ!?まさかこれは」


ヒナはこの階層全体に響いている警報音について、心当たりがあった。

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