第一章 Part10

ユウマに画像を見せられ、その画像の男は、なんとアスタだった。その事に驚きを隠せないユキ。


「…」


「この男の名前はアスタ。この男は先日人を殺し、殺人の罪で、現在は逃亡している」


「!ちょっと待ってユウマ。アスタが人を殺したって、どういう事」


「ん、なんだユキ、この男の事を知ってるのか」


「え、あ、うん、知ってる…知ってるけど、アスタは、人を殺すような…」


「ユキちゃん?」


「…実は先日、上層部にある映像が届いた。コレがその映像だ」


ユウマが見せてきた映像は、つい最近、アスタ達があのボスと戦った時の映像だった。だが、その映像はフェイク映像だった。その理由は、この時に戦ったボスは、白いエネルギーの集合体のモンスターだったはずが、この映像では、ボスは人の姿に変わっていた。当然、これがフェイク映像と気づいたのは、その場にいたユキだけだった。


「待ってユウマ」


「ん、どうした」


「確かに、この映像だけだと、アスタが殺したように見えちゃうけど、ホントは違うんだ」


「違う?」


「うん、この時倒したのは、人じゃなくて、モンスターに変化したヤツなんだよ」


「モンスターに、変化。そんな事が、…それよりその口ぶり、ユキ、もしかしてこの場にいたのか?」


「うん」


「なるほど、だからこれがフェイクと」


「うん、でも、この映像が広まれば、アスタが危ない、だから、ボクが証明する。この映像がフェイクだって」


「ユキちゃん…」


「…分かった。俺が何とか上層部と話して、この映像の公表を遅らせるか、上手くいけば中止にさせる。ユキはその間に、何とか証拠を集めてくれ」


「うん、分かった。ありがとうユウマ」


「別にいいさ、僕も一度だけ、アスタという男にあったことがある。その時を思い出せば分かる。アスタという男は、人を殺すような人間ではないと」


「ユウマ…」


「じゃあ、僕は行くよ」


「うん」


ユウマは、上層部と交渉するため、部屋を後にした。


「ユキちゃん、私はその、アスタさんって言う人に会った事がないから、分からないんだけど、ホントにその人は、信用できる人なの?」


「うん、アスタは強くて優しいから。それに…」


「?」


「ちゃんと、この目で見てるから。…とっても信用できるよ、アスタは」


「そう、なら私も、ユキちゃんの信じるその人を信じるわ」


「…ありがとう、サオリちゃん」


「いいの、ユキちゃん」


「ん?」


「私にできる事があれば、いつでも言ってね。私も協力するから」


「うん、ありがとう」


ユキは、信じてくれたサオリに感謝し、その部屋を後にし、廊下で待っていたミユキと合流した。


「お姉ちゃん、大丈夫だった?」


「うん、ボクは大丈夫。でも、アスタが危ないんだ」


「え?何があったの?」


「実は…」


ユキは、会議で話し合った内容について、ミユキに説明した。


「そんな、アスタさんが、殺人罪なんて」


「うん、だからミユキ、協力してもらえる?」


「うん、もちろん協力するよ、お姉ちゃん」


「ありがとね、ミユキ」


ユキ達は、アスタの冤罪を証明する為、動き出した。そしてユキは、しばらくアスタに会えないことになってしまったことを、メッセージでアスタに伝えた。


「ユキ達、何があったんだ」


「分からないが、分からないことは、考えていても答えは見つからない。だから、私達は私達にできることをしよう」


「あぁ、そうだな」


アスタはユキ達が心配になりつつも、ユキ達を信じて、気持ちを切り替えダンジョンでの特訓に向かった。そして、ダンジョンへ辿り着いたアスタ達。


「さて、今日も始めますか」


今回も、今までに引き続き、魔力剣での特訓になるが、アスタは徐々に魔力剣での戦闘に慣れ始めてきていた。その証拠に、最初の頃は、少し苦手気味だったアスタも、今回だけではないが、苦戦なくモンスターを次々に倒していった。


「ハッ!、フッ!おっと、ハァー!」


それを近くで見ていたヒナも、アスタの成長を感じていた。


「(良い感じだな)」


そんな調子で。その日のノルマを達成しそうなアスタ。その頃ユキ達は、フェイク映像の犯人の足取りを追っていた。


「それにしても、一体誰がこんな事を」


「犯人が誰にせよ、早く見つけないとね、お姉ちゃん」


「うん、そうだね」


「この映像って、フェイク映像なんだよね?」


「うん、ボクもそう思うんだけど、正直この手の事にはあんまり詳しくないんだよね」


「任せて、お姉ちゃん。私、やってみる」


「ホント!?ミユキ」


「うん、凄く自信がある訳じゃないけど」


「大丈夫。やってみて、ミユキ」


「うん、お姉ちゃん」


ミユキはそう言うと、映像の解析を始めた。仮想キーボードを使い、調べていくと、この映像の発信源が分かった。


「お姉ちゃん、ここ」


「ここは…第十五階層。またここか」


「この映像、あの人達の仲間がやったのかな」


「分からない、でも行ってみよう」


映像の発信源が、第十五階層と分かったユキ達は、ホントの映像を入手する為、第十五階層へと向かった。そんな中、上層部の一人である、アイクという男は、陰でこの一件に関わっている者と接触していた。それどころか、陰の者達と手を組んでいた。


「そっちの調子はどうですか、上手く彼の心を刺激できていますか?」


「はい、こちらの方は順調に進んでおります。アイク様」


「そうですか、それなら良いのです。間違っても我々で彼を殺さないでくださいね。これはあのお方からの命令です」


「はい、承知しております」


「分かっているなら、良いのです。行きなさい」


「はっ!」


その言葉を合図に、部下は去っていった。


「彼が覚醒状態を使いこなせば、あの方もさぞ喜ばれる。これは楽しみですね」


アスタ達が知らない所では、アイクの言うあの方、つまりは、ゲータの計画が進められていた。アスタがこれまで体験した出来事は全て、アスタが覚醒状態に至るまでの、ゲータの計画の一部だった。だが、その計画を阻止しようと、ユキとミユキは、二人で一緒にゲータの計画を止める為、動いていた。

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