第一章 Part3

「落ち着いて聞いてほしい。まずこの世界は、君が、いや、君達が真に生きる世界ではない。ここは、言うなれば異世界だ。君以外にも、同じ境遇の者もいるが、とにかく、君達が真に生きる現実世界は別にあるんだ。君達はこの異世界とは違う、現実世界から意識をリンクさせているんだ」


「意識を、リンク?」


「あぁ、現実世界にある装置を使って、君達の意識を、この異世界に飛ばしているんだ」


「それはつまり、意識だけをこの世界に飛ばして、この世界に存在しているって事ですか」


「あぁ、その通りだ。現実世界にある施設から、君達は意識をリンクして、この異世界で存在している」


「施設?」


「あぁ、陸ではなく、海の上にある施設だ」


「っ!?海の上!?」


「そう、この世界の創造に関わった者達、つまりは複数の人間と二人の異世界人で手を組んでいるチームで動いている。その中でチームを指揮している奴の名は、ゲータという異世界人だ。奴は異世界から現実世界にやってきた。そしてその現実世界を見たゲータは、たくさんの人間の負の感情を目の当たりにし、彼らを滅ぼそうと考えた」


「負の感情?たったその部分を見ただけで、そんな」


「全くその通りだ。だが奴は異世界から現実世界に行くのに、大量の魔力を消費した。よって、ゲータ自らの手で現実世界を滅ぼすことは、奴には出来なくなった。そしてゲータは、恐ろしい計画を思いついた」


「計画?」


「そう、改造人間計画さ」


「改造、人間?」


「あぁ、生身の人間の身体に長時間かけて、ゲータの魔力を流し込むことで、奴の思うがままの兵隊を造りあげる。そしてその実験場こそ、今まさに君達がいるこの異世界って訳だ」


「実験場、この世界が…。でも、現実世界からこの世界へのリンクなんて、一体どうやって」


「それは、ゲータの残り少ない魔力から、ゲータ自身に元から備わっていた能力、創造と操作だ。この世界は奴が現実世界でたまたま見つけたゲーム、Sword&MagicAdventureというVRMMOゲームなんだ」


「ゲームの、世界」


「あぁ、そこから奴の創造の力で、この世界を創りあげた。そして君達を見つけたのは、現実世界で奴が現れた日本という国で、奴の目で見た中で、最も魔力の適正が良さそうな人間が集まっていた場所。そこは児童養護施設だった。君達はそこにいたんだ」


「じゃあ、ここはゲームの世界って事ですか。でも、児童養護施設って」


「そうだね、まずこの世界の事から話そう。ゲームの世界とも言えるが、実際はそうじゃない。まず奴がわざわざこの世界を創った訳は、実際のゲームの世界では、君達の強化期間が短いと考えたからだ。だからこそ奴は、この異世界を一から創り、新たな生命の誕生を生み出した。そして、児童養護施設についてだが、君達は児童養護施設の人間だ。奴は児童養護施設にいる君達に目をつけ、表向きは新しいゲームマシーンのオープニングセレモニーとして、そこにいた十五歳から十八歳を対象とし、君達を海の上の施設へと誘拐し、ゲータにより細工されたゲームマシーン、カプセルに君達を繋ぎ、この異世界へとリンクさせた。この異世界にリンクされていた期間は、およそ十八年だ。とは言っても、それはゲームの中での話、現実世界では、一日と言った所だ」


「何で貴方は、そんな事まで知っているんですか」


「僕は、とある異世界人が作った、言わばプログラムの一部なんだ」


「作ったって、なんの為に」


「もちろん、この世界から君達を逃がす為さ」


「…」


「君達は全員で二十一人、一度に逃がせるのは、二十人が限度だが、そんなの二回行えばいい」


「逃げるって、出口はどこにあるんですか」


「出口は、第二十一層にある」


「二十一層!?二十層が一番上なんじゃ」


「それは元々のゲームの設定上の上限だ。この世界はゲータが創造の力で創った世界、しかもそこにゲータは細工をしている。それはゲータがいつでもこの世界へ出入りできるように設定したものだ。つまり、そこからならこの世界からの脱出は可能という事だ」


「なら、今からでも、皆と」


「いや、あまり大人数で動けばゲータに見つかってしまい、計画がバレてしまう。だから彼らに伝えるのはあまりよろしくない」


「じゃあ、どうするんですか?」


「安心したまえ、この世界には我々の他にも協力者がいる」


「協力者?」


「あぁ、プログラムとして私を作った人だ。そしてその協力者は、ゲータに最も近しくなれた人間だ」


「…貴方もそうだけど、その人は信用できるのか?」


「あぁ、私はともかく、協力者の事は信用してくれていい、私を作ったのがなによりの根拠だ」


「…俺はまだ、信用できない」


「そうか、でも、今は信用してなくとも、その内信じてくれれば、私はそれで良いし、協力者に至っては、会ってからでも、その後でも構わない。この際大事なのは、君達を逃がせる可能性があると言うことだ」


逃げる事に頭がいっぱいのアスタだったが、そこでアスタは、疑問に思った点をイナイに聞いた。


「ちょっといいですか、イナイさん」


「あぁ、何だい?」


「一つ疑問に思ったんだが、この世界から逃げる際、ゲータと戦うことになるのか?」


アスタは疑問に思ったことについて、イナイに問いかけた。


「そうだね、最悪の場合、そうなるかもしれない。だが、そうならないようにするつもりだよ」


イナイは自信げにそう言った。


「どうするんだ?」


「まず逃げる為には、ゲータがいない時を狙うしかない。奴がこの世界から出たタイミングを見て、二十一層へと向かう。最悪の場合は戦うが。そうならなければ、一層から二十層を一気に駆け上がる、そして二十層に着いたら、パスワードを入力し、二十一層へと入る。そしてコンソールを見つけ、そこからこの世界に来てしまった者達を逃がす」


イナイの作戦を聞いて、そうかと思ったアスタだが、ここでまた新たな疑問が見つかった。


「イナイさん、イナイさんの作戦を聞いて思ったんだが、それで仮に逃げることができたとしても、逃げた先にゲータがいるんじゃないか?それとイナイさん、アンタ少し焦ってないか?」


「あぁ、まあね。何せ時間があまり残されていないからね」


「時間?」


「そうだ。今からおそらく五ヶ月後、この世界でゲータがある実験を始めようとしている」


「実験って、一体何を」


「それは、第一負荷実験だ。君達の実力を確かめる為のテストさ。だが、第一とつけてはいるが、これでゲータの望む結果に終われば、すぐにでも君達を目覚めさせ、奴の目的が達せられてしまう。それはなんとしても止めねばならない。あと、もし君達が無事に逃げた後だが、その時はこっちの方でゲータを誘き寄せる、誘き寄せるというより、奴は来るだろう。何せ君達が逃げ出すという、ゲータにとっては緊急事態だ。だが奴を完璧に誘き寄せる為には、悪いがアスタ君、君の力が必要になる」


「俺の力が?」


「そう。君の中に深く眠っている覚醒の力だ」


「!?俺の中に、そんな力が」


「あぁ、その力を使って奴を誘き出し、奴が来たと同時に、最後の一人である君を逃がし、コンソールを破壊する。そうすれば、奴はこの世界から二度と出られなくなる。そして残った私と外にいる協力者と共に、ゲータを倒す。まあ正直、倒せるかどうかは賭けだが、それでも奴をこの世界に永遠に閉じ込めることはできるはずだ。そして、外に出られた君達の前に、恐らく武装した人間が待っているかもしれない。その時はこれを使ってくれ」


「これは?」


「私が作った、外にも持って行ける魔力回復剤だ。これを飲めば、奴らに対抗できる。もちろん殺す必要はない、気絶させる程度で大丈夫だ。後は警察がなんとかしてくれる」


「警察?」


「あぁ、この世界で言う所の、強い剣士みたいな人達だ」


「そうなのか」


「あぁ、そしてもう一つ、逃げる際は、無線から助けを呼び、待つんだ。それと、無線で助けを呼ぶ前に、施設を覆っている魔力バリアをちゃんと解除してくれ、そうしなれば、いつまでも助けは来ないからね」


「無線?」


「今は分からないかもだが、現実世界に行けば、全て思い出すはずだから、大丈夫だ」


「よく分かんないが、そうすれば、俺らが元いた場所に帰れるってことか」


「あぁもちろん。帰る事ができる。君達が元いた場所へ」


「帰れる、何か、あまり実感がないな」


「そうだね、まだ君は記憶を思い出せていないからね。…今日はもう遅くなってしまった。明日また話そう。あ、その前にフレンド登録をしておこう、これでいつでも君と連絡がとれる」


そう言うと、アスタとイナイはフレンド登録をし、アスタは自分の宿へと帰っていった。その後アスタとイナイは連絡をとりながら、雑談をしていた。たまにこの世界のしくみなどの話をしていた。そして話しを終え、アスタは眠りについた。


そして次の日、アスタは目を覚ますと、昨晩イナイが言っていた、記憶を取り戻す方法を行なうべく、アスタはまた、第十七階層の洞窟へと向かった。洞窟に着き、パスワードを入力し中に入ると、イナイの姿はなかった。辺りを見渡していると、机の上にドリンクと紙が置いてあった。


その紙には、これを飲んでみてくれと言う、言葉が書かれていた。アスタはそれを見て、机に置いてあったドリンクを飲んでみることにした。それを飲むとアスタは、脳に少し強い刺激が走った、そしてそのまま、アスタは床に倒れてしまった。アスタが飲んだドリンクは、脳に刺激を与える事で、アスタの記憶を呼び覚まそうとするという、イナイの考えによるものだった。


アスタは記憶を取り戻し、取り戻せた事を伝える為に、イナイに連絡をとるが、イナイから返事が返ってくることはなかった。

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