001(ダブルオーワン)

@lemoned12345

第1話 00の遺恨

4月、それは出会いの月。多くの別れに涙を流した(俺は記憶にないが)3月を終えた我々にはたくさんの出会いが待っている。良いもの悪いものどちらも…。


「僕は三島 凛!よろしくね!黒木琉生君!」


どうやら俺は面倒な出会いを引いてしまったらしい。




 「ねむい」


朝8時半俺は妹の玲にたたき起こされ起床した。妹はベッドの横に散乱している昨日呼んだ漫画を片付けている。


「お兄ちゃんまじで早く起きないと遅刻するよ!?」


「えぇ、まだ大丈夫でしょ…」


妹は何か言いたげだが努めて無視し、のそのそと布団からでる。


「朝ごはんはお義父さんが今作ってるから、お兄ちゃんは早く顔洗ってきて!」


そう言って妹は黙って部屋から出ようとする俺を引き留めタオルを押し付けてきた。


「ふぁーい」


「早く!お姉ちゃんも使うんだからね!」


妹の怒声を背に受けながら俺は部屋を出る。妹はいい奴ではあるのだが世話焼きな性格が玉に瑕で、我が家での母の代わりとしての地位を確立してしまっていた。


「朝から賑やかねぇ」


リビングには俺より先に起きた(というより起こされた)のだろう姉の雫がいた。朝のよくわからないバラエティ番組を見ながら髪を梳いている。


「わり、姉ちゃん。洗面台使うわ」


姉ちゃんが手だけだしてOKサインを出したので洗面台に向かう。顔を洗うと異様に白い肌に多少血の気が戻ってきた。その後歯磨きと寝ぐせ直しをすませ、俺はリビングへと戻った。


リビングではすでに俺以外の家族が朝ごはんを食べていて、そしてなぜだか少し盛り上がっていた。


みるとテレビでは桜が各所で咲き始めたことを祝う内容が放送されており、皆が話しているのは花見の計画だった。


「〇〇公園のほうが映えるんだって!」


「でも遠いじゃない、嫌よ」


「たまにはいいじゃないか、皆で遠出したって」


「そーよー!」


どうやら近所の公園で済ませるか、少し遠出してSNS映えする場所に行くかで揉めているらしく。現状義父さんと玲が遠出派で、雫姉が劣勢らしい。


くそしょーもねーと流しつつ朝飯を食っていると不意に会話がぴたりと止んだ。


「本日〇〇教会の教祖…と幹部合計4名の死刑が執行されました」


宗教…俺達とは切っても切れない存在、組織。思考の赴くまま俺は数年前の出来事に思いを馳せていた…。


「こっちだ!はやく!」


黒木翠 今の俺達の義父さんが白衣を血で濡らしながら進む。


「待て!お前たち!ここから逃げるなどy…!」


俺達を妨害しようと立ちふさがった男を俺はその場で蹴り殺し、翠へ先に進むよう促す。


周りの状況はまさに「カオス」と形容するに相応しいものだった。四方八方から俺達を探す警備員の怒声や、死に損なった研究者のうめき声、脱出した被検体の咆哮が聞こえる。


3年前、俺達はとある山中にある宗教組織「神同会」の研究施設内で反乱を起こし脱出した。首謀者は俺で、協力者は翠だ。


俺達は神同会の教義「霊長である人類は急速に次の段階に進化しなければならない」とかいうイカれた教義に基づいて行われた実験「新人類計画」によって生み出された。


俺は吸血鬼、雫は鳥人、玲は蜥蜴人をモデルに、それぞれ近い特性を持つ他生物の遺伝子と人間の遺伝子を掛け合わせ生まれ、いくつもの失敗と犠牲の上に初めて成功例として生まれた俺達は「最初の新人類」として「00(ダブルオー)世代」と呼ばれることになった。


だが、話はそれで終わりではなかった。研究者たちは実験と称して俺達に対し様々な苦痛を味わせた。


雫と玲はしらないが、そのことを依然聞いたときかなり動揺していたのでよっぽどだったのだろう。


俺は再生能力の実験といい手足を切断されたり内臓を壊されたり、目の前で分身をぐちゃぐちゃにされたりした。


幸い俺は自らの痛覚を遮断する方法を持っていたのと再生力が高かったため、何とか生き残ることができた。しかし、俺と一緒に実験された同胞は全員苦痛に耐えられず自害したか再生が間に合わず死亡した。00世代は俺の他に14人いたらしいが生き残りは俺と雫と玲だけらしい。あとは実験の最中命を落としたのだと。


実験や研究者は嫌いだったが、当時俺は外の世界も知らず、実験や苦痛の日々が当たり前だと思っていたのであきらめており、研究者達から学んだ言語を使って妄想を膨らますくらいしか欲求がなかった。しかしその状況に耐えれなかったのは他でもない研究者である翠だった。


翠は実験時に俺に外の世界や今の状況の悲惨さ、他のの実験室にいる同胞(雫、玲)について教えた。翠の実験はいつも優しいものだったから俺は翠が好きでこの話もすぐに信じ、当たり前だが今の状況に激怒した。外の世界に出たい、まだ見ぬ残り二人の同胞にあいたい…俺に苦痛を与えた研究者を皆殺しにしたい。


感情が発露してからの行動は早かった。感づかれる前に脱出するために計画は3日後に決行。作戦はいたってシンプル、俺が暴れている間に他の被検体を逃がす作戦だった。


実験時以外の拘束を翠に解いてもらい壁を破壊、あっけにとられているその場にいた研究者達を皆殺しにして自らの分身を生成、ひたすら暴れさせた。最初は少なかった分身だが次第に数が増え、しかもそれに加え他の人間ベースではない化け物どもも開放してしまい研究所は壊滅した。


「それでは本日はお別れの時間です!皆さん今日も一緒に頑張りましょう!」


回想に耽っている俺の意識をニュースキャスターの声が現実に戻す。


「おい、ぼーっとしてる場合じゃねぇだろって!そろそろホントに時間やばいぞ!」


俺の声に我に返った雫たちは慌てて準備をする。慌てて3人で一斉に出かけようとすると、翠…義父さんが声をかけてきた。


「お前たち…気を付けろよ。いってらっしゃい」


俺達は顔を見合わせ声をそろえる


「「「いってきます!」」」



学校につくと俺は自分のクラスへと向かい席に着く、すると朝から暇な奴らが何人か絡んできた。


適当に相手しつつ時間を潰していると担任が入ってくる。まだ新学年になって間もないのに生徒たちからの人気が高いタイプの若い先生だ。俺も嫌いじゃない。


がしかし、今日は妙な奴を連れている。なんだあいつは。


そいつは静まり返った生徒たちを舐めるように見つめたあと俺と目が合い、俺達は数秒間無言のまま見つめ合う気まずい時間を共有した。


「なーに静まり返ってんのよ」


担任の無遠慮な声が響く、いまだ俺達がなにも言わないでいると


「あー、そいつはな、あれだ「転校生」だ」


瞬の静寂の後、教室が沸く。転校生というありがちだが実際にはなかなか居ない存在に生徒たちは夢中だ。


その後担任が生徒をなだめ、双方の適当な自己紹介が済み、転校生の席を決める運びになった。


あ、ちなみに転校生の名前は三島 凛というらしい。男である。


凜は少し考えた後、俺の隣の席を指定した。


「あの子の隣がいいです!」


俺はこの時確信した。


こいつは確実に面倒くさい奴だと。


































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

001(ダブルオーワン) @lemoned12345

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ