第10話




 時刻は23時。


 現実に戻ってきたすめらぎ愛海なるみは、ヘッドギアを外す。


 

 あの後、フェルマータと名乗ったドワーフとフレ登録を済ませ、

 時間も時間だからと、翌日に会う約束をして、別れた。



 ログアウトする前に、愛海は何度も確かめた。

 確かに、フレンドリストに、フェルマータの名前が刻まれていることを。


 たった一人だけだけど。


 やっと、トモダチが出来た。

 まだ、まともに会話らしい会話は何もしていないし、一緒に雨宿りしていた時間は僅かなものだった。

 しかし、フレンド登録してしまったのだ。

 これはもうトモダチ、いや、シンユウと言っても良いのでは?



 真っ暗な自室。

 勉強机の横に設置されたVRゲーミングスペースに座る愛海。

 

 そこで。


 ふへへ……。

 にへら、と愛海は気色の悪い笑みをこぼす。

 

 トモダチいや、シンユウを得て、さらにパーティにまで入ってしまった。

 一瞬、引退という文字がよぎったが。


 とんでもない。

 今日からは、ゲームの世界が本当の現実だ。

 

 しかし。


 はぁ。

 

 溜息。


 愛海の脳内に咲き誇っていた薔薇色が、一瞬で灰色に枯れ果てる。

 明日も学校だ。

 また『空気』として過ごす苦行が始まる。


 同時に、やるべきことを思い出した。



 「明日の予習しなきゃ……」


 愛海は気だるげに立ち上がる。

 勉強用の机に移らねば。


 確か明日の授業の予定は……。



 いや、



 そういえば。

 



 予定と言えば、フェルマータは明日、街のとある冒険者亭に、20時に来てほしいと言っていた。

 

 冒険者亭は、クエストなどを斡旋してくれる、お仕事大好き系プレイヤーと、誰かとわいわい騒ぎたい系プレイヤーがたくさん集まる場所だ。


 そんなところに、果たしてたどり着けるだろうか……。


 不安になる。


 不安はそれだけではない。

 ずっとパーティプレイを夢見ていたから、パーティプレイのセオリーをネットで勉強したり、脳内でイメージトレーニングをしたり――そういう準備は常日頃からしていた。

 でも、いざやるとなったら、ちゃんとできるか、不安でしかない。



 もう一度、第二世界スフェリカの攻略サイトや、ブログを漁って

 勉強し直す必要があるのではないか?


 『あ、パーティ組もうって言ったけど、そんなに使い物にならないんじゃダメね、やっぱり外れてくれる?』


 そう言われないとも限らない。

 そんな想像をしていると、わなわなと震えてくる。


 そうだ。

 失望されたらおしまいだ。

 パーティを組もう、と約束をしただけだ。

 すぐに、やっぱり要らないと言われる可能性を考えていなかった。


 放り出されたくはない。

 せっかく掴んだチャンスなのに。


 99Kという数字の強さにだけ頼るわけにはいかないのだ。

 VRMMOは、プレイヤースキルのウェイトがとても高いのだから。



「や、ややや、やっぱり学校の予習とかしてる場合じゃない……!」


 もうVRゲームが生きがいになってしまったのだから。

 ゲームが本当の現実だというならば。


 気は抜けない。

 

 予習すべきは、学校の事ではなく。


第二世界スフェリカの予習しよう、うん、そうしよ」



 こうして、愛海は、さらにVRゲーム廃人化が加速しました。 



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