第9話
「ご、ごめんなさ……。急に声出ちゃって」
湧き上がるのは、羞恥心。
ローリエは急に大きな声を出したことを詫びる。
「ううん、それより、あなたパーティに興味あるの?」
「え、いや……。ちがっ。いやじゃな……くて、その」
「じゃあ、もしかして、もう他のパーティに入ってたり?」
そんなことは無い。絶対にない。
一度だって無い。
うつむいたまま。
ぶんぶん、とものすごい勢いで、ローリエは首を振る。否、と。
「そっか。私、さっきも言ったけど、今、どうしても倒したいボスが居てね。何度か試したんだけど、どうやっても今の戦力じゃ無理みたいで。だから、手伝ってくれるメンバーを探してるの」
ドワーフの少女は、地面を見つめたままのローリエを見る。
テンションが低く、乗り気でなさそうにも見える仕草。
ちょっと強く推し過ぎたかな、と。
もしかしたら、迷惑だったかな、と。
本当は、どこかへ行けと思っているのかな、と。
世の中には、一人の方が好きって人もいるし。
ドワーフはそう思ったから。
「――もしよかったら頼めないかなって、思ったけど……」
少女の言葉尻に、諦めが混じる。
ローリエの伏せっていた目が、前を向く。
改めて。そして確かに。
目の前のドワーフ少女を、その眼が見た。
しかし、それと同時に。
「でも、あんまり無理に誘うわけにはいかないわね。そっちにメリットがあるかどうかも分からないし」
その姿が踵を返す。
ロングマントが翻る。
ローリエの視界には、ドワーフの少女の小さな背中。
マントの上から背負った大きな盾と、頭に装着したウサ耳。
そのシルエットが、青空が見え始めた空を向く。
土砂降りだった雨は。
霧雨に代わっていた。
完全に止んでしまったら、少女がここに留まる理由はもうない。
いや、もう軒下から出ても問題ない程の雨の強さだ。
今にも出て行くかもしれない。
だから。
言わなければ。
パーティに入ると。
今すぐに。
これは千載一遇のチャンス。
この3年間、1度も無かったチャンスだ。
ローリエのSPは99K。
全く役に立たないということは無い。
いや、絶対役に立って魅せる。
だから、パーティに入ると。
言わなければ!
言わなければ!!
言わなければ!!!
ぐっと、握った拳に力が籠る。
「悪かったわ。それじゃ」
「待って!」
――ください。
超絶な、デクレシェンド。
去ろうとしたドワーフ少女が立ち止まり。
振り返る。
「あっ! アノッ、パ…………
不揃いなアクセントに、波うつボリューム。
言葉としては、全く用を成していない。
が、しかし。
記号の羅列のような、それだったが。
「え? 入ってくれる……んですか? 私のパーティに?」
はい、です。
そう、です。
いえす、です。
OK、です。
肯定、です。
こくこく、とローリエは全力で、頷いた。
ドワーフが立ち去るのをやめて、再び、ローリエの隣に戻ってくる。
「ありがとう」
「い、いえ。でも、お役に、立て、るか、は……」
「大丈夫よ。もしも、強さが足りなければ、一緒に修行しましょう?」
「は、はいっ」
『一緒に』!?
なんてすばらしい響きなのだろう。
「私は、ドワーフで、見ての通り防御型でパラディンぽいことをしてる、フェルマータです、よろしく」
あなたは?
「わ、わた、私はッ……名、前、ローリエ……ですっ」
「そう。ローリエちゃん? じゃあ、略して『ロリちゃん』ね」
「ろ、ろり!?」
「だって、背ちっちゃいし。全体的にロリってしてるじゃない?」
そっちドワーフじゃない。
おまえが言うなァ!
……って言いたいです、すごく。
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