第8話
ドワーフの少女は、相手――つまりローリエからまともな返答を得ることを諦めたかのように。
言葉の追撃はやめて、一歩退き、じぃ、とローリエの姿を下から上まで観察をはじめた。
おもむろに、紅い眼鏡を取り出して、装着するとさらに。
じっくりと見つめて。
その間、ローリエは麻痺毒でも食らったかのように固まっていて。
暫くすると、ドワーフの少女が再び尋ねる。
「とても身軽なのですね……? 格闘系のビルドですか?」
「え、あ……」
少女は、ローリエが武器を携帯していないことを気にしたようだ。
このゲームは、他のゲームのようにインベントリが親切ではない。
現実のように、物を携帯するには相応のカバンや入れ物を持つ必要があり、武器も持って歩ける分しか携帯することは出来ない。
ただ、カバンの中の大きさを四次元ポケット的に増加させるスキルや方法はある。
とはいえ、武器を持っていないというのは、そういうキャラ構成なのだと思われても仕方が無かった。
えと、あの。
携帯していないのには理由があるし、1000円の月額課金から利用できる、倉庫に自由に接続できるサービスを得ているのもあるし――。
説明しようにも、言葉が出てこない。
いきなり何百文字も、ローリエの口からは出てこなかった。
ドワーフ少女は、それとも製造系? 魔法使い系という線も?
などと、ぶつぶつと一人で呟き。
「どちらにせよ、初心者という訳ではないですよね? ――」
今度は、衣装の方に目を向けられる。
ローリエは、頭には生花を編んで作ったヘッドドレス。
身体は緑の巨大な葉っぱなど。
様々な植物を元にして作られたドレスを纏っている。
全体のカラーリングは緑色。だが、スカートは大きな白色の花弁で構成され、座ると本当の花のように広がる仕組みになっている。
防御力というよりは、デザイン性重視の装備だと言える。
その装備をドワーフはまじまじと見る。
そうして、何かを諦めたかのように、紅い眼鏡を外して懐に仕舞いつつ。
「――だって……看破阻害の効果を持った装備だなんて」
いつのまにか、ドワーフは看破系のスキルを使っていたらしい。
もしくは、紅い眼鏡が、その効果を持っていたのだ。
しかし。
ローリエの装備には、ある程度のレベルまでの看破――即ち、相手の実力がどれくらいかを探るスキルやアイテム効果等――を無効化する特殊加工が施されている。
けれども、そんな加工を施せるヤツは絶対に初心者ではない。
ドワーフは、ひとしきりの観察を終えて。
ぐい、っとローリエに詰め寄った。
これまでにない位、近く。
あわわ。
ち、ちかいちかい。
ローリエは慌てふためく。
「ちょっとお聞きしたいのですが……」
「は、はい……」
「SP幾つですか?」
「え、えすぴー、です、か?」
「ええ、総獲得スキルポイント、です。解りますよね? ちなみに、私は、75Kなんですけど……」
ちょっと威圧感を感じで、恐々としつつ。
ローリエは、「ち、ちょっと、待って、ください」とだけ、必死に受け応えた。
このゲームにおいて。
相手の強さを訊くのに、総獲得SPを訪ねる、というのはこのゲームならではの方法だった。
この
レベル、という物が存在しない。
敵を倒しても、経験点は得られない。
代わりに、SPを獲得する。
適正レベル帯ならば1匹につきSP1とか得られればいい方で、適正レベルを外れると、小数点以下の獲得になっていく。
0.01とか0.001とか、どんどん減っていく。
そうして得たSPを使って、ステータスを上げたり、スキルを獲得するのに使ったりするのだ。
当然、高いステータスや、高ランクのスキル程、必要なSPは激増していく。
また、このゲームに、職業という物は存在しない。
ジョブも、クラスも存在しない。
数え切れないスキル群から、様々なスキルを獲得し、目指すキャラクターを自由に紡ぎ出し。
その結果、自分を剣士だと思うならば、剣士だと自称し、魔法使いだというのならば、魔法使いだと自称する。
例えば。
物理スキルから、どの武器にでも使えるスキルを選んで取れば、あらゆる武器を使える『戦士』と言えるだろう。
剣のスキルを特に選んで習得すれば、『剣士』と言えるだろう。
剣の中でも、両手剣に絞れば、『両手剣士』と言えるだろう。
火のスキルと、剣を選んだなら、『火の魔法剣士』と言えるだろう。
さらに、1000SP毎に、種族特徴が強化され、ステータスにボーナスを得たり、種族スキルを覚えたりする。
そのSPの総獲得量の最大値は100,000ポイント。
それを種族強化の基準にもなる1000ポイントで区切って、100Kなどと呼称し、これを
当然、100,000ポイント程度では、ゲーム内のスキルを網羅することは到底できない。
SPはステータス強化にも使用することから、常にプレイヤーは取捨選択を迫られ、接続数10万人のプレイヤーが居るのだとしたら、装備もステータスもスキルも、誰一人として同じ者は存在せず、10万通りのプレイスタイルがあると言える。
「えっと、あの、き、き……」
99Kです。と、ローリエは頑張ってこたえようとするが。
「ああ。ごめんなさい、困らせてしまって」
いう前に、ドワーフの少女が引き下がった。
「ちょっといま、一緒にとあるボスと戦ってくれるパーティメンバーを探していて……」
「ぱ、ぱーてぃー……」
めんばー!?
「!?」
はっ、とローリエは口を押える。
今までのはなんだったのか、という程、今日一。いや、年一大きな声が出た。
VRゲーム用の機器は、脳内パルスから発せられる命令に忠実だ。
ちゃんと、感情をゲーム内のキャラクターに表現し、表情を作り出す。
ドワーフの少女は驚いていた。
ローリエも驚いていた。
これは、千載一遇のチャンスなのではないか!?
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