第3話

「まいど」


 ローリエの掌に、数枚の紙幣と硬貨が渡される。


 お金だ。


 NPCのおじさんが、買い取った素材分のお金を渡してくる。

 NPCなので、その笑顔もプログラムで、言葉も規定通り。

 ローリエは何の気づかいをする必要もなく、無言、無表情でそのお金を受け取った。

 実際には、プレイヤーに売ったほうが、良いおかねになる。


 しかし、他のゲームと違い、このゲームにはなぜか遠隔で取引する手段がない。

 取引所に品物を登録して、別の場所に居るプレイヤーがそれを購入する。

 そういうシステムが無い。


 かなり前のゲームのように、自分か、雇ったNPCに露天販売してもらうか方法しかない。

 そして、露天販売のメッカは、首都だ。

 人、ヒト、他人。

 どこもかしこも。

 ものすごい人混みでひしめく街だ。

 そんな場所に、ローリエは行きたくない。

 露店以外にも、直接会って取引する方法があるが、それは問題外。


 だから、狩場近くの辺境の村でNPCに売っている。


 素材を売った後は、倉庫の整理。


 倉庫管理NPCに倉庫を開いてもらう。

 VRなので、倉庫はちゃんと扉があり、中に入ることができる。

 そこには、アイテムが並べて置かれている。

 

 ローリエの倉庫には、ローリエが製造した高級な宝石や、薬草がいっぱい入っている。

 しかしもう倉庫からあふれそうになっている。

 特に、万能霊草パナケア


 これは、加工すれば量が激減するので、さっさと加工しないといけない。

 これも加工できるプレイヤーに頼めば安く、加工の成功率も高く、品質も高いのだが――。


 ローリエはいつもNPCにお願いしている。

 

 「お、お願いします」

  

 水系魔術師NPCに、加工をお願いして。

 どこをとっても至って普通のエリクシルが沢山出来上がった。

 ついでに、製造失敗時に出来上がる高級なゴミもいっぱいできた。

 

 そしてまた、倉庫に高級薬品が並べられる。

 エリクシルは大変高価な高級回復薬――のはずなのだが、NPCには価値が解らないらしく、1グランでしか買い取ってくれない。


 これをちゃんと売るには、首都に行くしかない。

 だからずっと、倉庫に眠っている。大量のエリクシルが。


 

 まぁでも、薬品と宝石であふれそうな倉庫を見るのは、けっこう楽しいのだ。

 コレクター精神というべきだろうか。

 金塊のたくさん入った金庫をみて、へらへら笑うかのように。


 ローリエは一瞬、にへら、といやらしい笑みを浮かべる。

 

 ――ちなみに、この倉庫は5番目であり。

 残りの4つもパンパンに詰まっている。

 なにせ製造できるようになってからのほぼ1年分だから。

 


 しかし、ローリエはもうすぐ成長の限界を迎える。

 まぁ、突き詰めればもっと強さを求めることもできるだろう。


 でも、どちらにせよこのままでは無理だ。


 一人でやっていくには、既に限界が見えている。



 


 ――周囲を見る。何気なく。


 この村は、森林系の最高難易度の魔物が出る地帯に接続している。

 パーティプレイ推奨地域だ。


 だから、ぽつりぽつりと、見えるプレイヤーは皆、誰かと連れ立っている。

 

 


「パーティ……かぁ……」


 仲間、友達、パーティメンバー。

 MMORPGなのに、一人で遊ぶなんて、オフゲーしているのと変わらない。


 最初から求めていた物を、そろそろ探しに行かなくては。

 

 たぶん首都には、パーティの募集が沢山あるだろう。

 ローリエは、かなり強い筈だ。きっと役に立つ。

 

 

 あんまり強くないパーティに入ることが出来たら、ちやほやして貰えるかもしれない。

 強大なボスに、立ち向かうパーティメンバー。

 しかし歯が立たない状況の中。

 颯爽と、無双プレイで、ぶったおし。

 感謝感激の大喝采。


「ふへへ……」


 何の根拠もない妄想が膨らんで。


 開け放たれたままの倉庫の扉。

 目の前には大量のエリクシルの在庫。


 

 

「よし、売りに、行こう……かな。首都、まで……!」



 やや調子に乗ったローリエは、そうして首都を目指すことにしたのだった。



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