掌編小説・『百合の薫りは怖ろしい』

夢美瑠瑠

掌編小説・『百合の薫りは怖ろしい』

(これは、去年の9月25日の「主婦休みの日」にアメブロに投稿したものです)


掌編小説・『今日は主婦は休み~百合の薫りは怖ろしい~』


 


 私は買い物依存症で、とっくの昔にクレカは使えなくなっている。


 後先を考えずに、ブランド物を衝動買いしたりするので、年中お小遣いに不自由している。

  夫は仕事人間で、帰りが遅くて、私は毎日一人で暇を持て余している。

  お金がなくて、暇だけがあれば、何かアルバイトでもしようか?こう考えるのは自然の成り行きだ。スキルや特技がなくても手軽にできるアルバイトはないものか…

 こう考えているうちに、ごく自然に「風俗」という選択肢が浮かんだ。セックスというのはまあなかば本能的にできるようになっているものだし、私は35歳の女盛り。

  趣味と実益を兼ねた…などという表現も私の決断を後押しする。

 

 「不倫」、「離婚」などという言葉が決断を鈍らせて、しばらく躊躇していたが、結局「物は試し」とか、「案ずるより生むが易し」とか、「若いうちが花」とかご都合主義の言葉に後押しされて、要するに金欲と好奇心のほうが打ち勝った。


 だいたいお金がないと「この世は闇」とも言うし…うーん、結局言葉って何とでも言えて虚しいわね?などと常識的な結論になって、私は風俗嬢の仲間入りをすることになった。


 いろいろと情報を漁っていると、「週3回。17:00~21:00。固定週給12万円」というのがあった。条件にぴったりで、報酬もまあまあ。ただその後に、「女性客専門ソープ」とある。店名が「リリー」だから、これはレズビアンソープらしい。

  女性相手だと「浮気」という罪悪感が薄れる。それに、女同士の愛戯なんて未経験で、好奇心が湧いた。「委細面」とあった「面」に次の日に出かけていく。(しかし日本語って便利だな)、などと埒もないことを考える。

 

 …テンチョーさんもやり手のおばさん、という感じの綺麗な女性で、レズビアンらしく絡みつくような視線を投げかけてきた。

「かわいいじゃない。モテるでしょ?女の人にも」ニヤッと笑う。

「経験ないんですけど…大丈夫ですか?」

「最初はそう言う人が多いわ」


… …


 「かわいい」のがよかったらしく、採用されて、さっそく実技の研修。マットプレイを教わった。「女性はやっぱりデリケートだからできるだけ優しくふるまってね」などと、心得も教わる。「乳首もイタイ人がいるから確認してね」ということだった。それは初耳だった。


… …

 

 次の週の月曜日に初出勤。私は張り切っていた。学生時代にコンパニオンの経験があって、「まあこれも接客業の一種だし…」と自分を励ました。

 最初のお客はわりと清楚なOL風の髪の長い美人だった。会社帰りかな?そういえば会社の残り香がプンプンしている気もして、色っぽく感じた。


… …


 結論から言うと「OL」さんはド淫乱で、激しく私の肉体をむさぼってきたのだった。そうして同じくらいに私にも様々な「奉仕」を求めてきた。

 90分が済むころには私はへとへとになっていて、女同士の性愛の濃密さに辟易へきえき?気味だった。

 私は少し腺病質で、体力も弱い。

(こんなことでは仕事が長く続かないな…寧ろ普通の男性相手のソープのほうが楽かしら…)そうひとちたが、その後はあまりお客も来ず、固定給ということもあって、(案外楽かな…)とか思い直した。

 女性はおしとやかで羞恥心の強い人がやっぱり多くて、大っぴらに女性用ソープとかに来る人は絶対数が少ないのかもしれないな…

  ぼんやりそんなことを考えていると、「紫さん、お願いします」と、スタッフの声がした。

 私の源氏名?は紫、というのだ。このソープのオーナーだかは案外みやびやかというか、「桐壺」とか「葵」とか「薫」とか、源氏物語に登場する女性の名前が女の子についているのだ。

 …!

 入ってきたお客を一目見て、私はちょっとドキッとした。

 典雅な感じの美貌の女性なのだが、明らかに外国人で、ターバンをしてサリーを纏っている。

 膚は褐色で、インド系かと思われた。

 女は妖艶に微笑んで、「ヨロシクオネガイネ」と言って、スルスルとサリーを脱いでいく。

 私は秘密ショーで珍しいストリップでも拝む感じになって、ちょっと頬を赤らめた。

 女はまた上目遣いにこっちをちらっと見て微笑む。


… …


 「ああん、ああん、いい、いい!キモチイイ!」


 私は啼泣する、という感じに昂奮してはしたない声を張り上げさせれていた。

 ゴゴンさん、というインド女性は、軟体動物のように柔軟に私に絡みついて、ツボを心得た愛撫でほとんど私を有頂天にしてくれたのだ。

 なんというか、本当のセックスというのはこういうものよ、そうゴゴンさんは「教えてあげる」と言っている感じに私を自在に責め苛んで、何度もエクスタシーに追い上げてくれたのだ。


… …


 「ああ、よかったわ」

 「スゴクカワイカッタワヨ」

 「すごいテクニック…あなたって何物?」

 私は衣服を纏った後、何気なしにそう聴いた。只者ではない、という感じがしたのだ。

 「イイエ、ヘイボンナシュフデスヨ」ゴゴンさんはクククット笑った。そうして今まで巻いていた頭のターバンを外し始めた。

 「?」

 すっかりターバンを外し終わったゴゴンさんは頭にごわごわしたパーマをかけていた…いや!それはパーマではなかった。髪の毛ですらなかった!それは黒々とした蛇の群れだったのだ!

 うずくまっていた蛇たちが赤い舌をひらめかせながら、うねうねと立ち上がり始めたとき、私は悲鳴を上げるいとまもなく失神していた。

 しかし、一瞬その「メデューサ」となったゴゴン、いやゴーゴンさんの瞳を見てしまっていたので、失神して頽(くずおれ)るとき、私は「石」にされていた。


 石にされて意識を失うその刹那、私は結婚して10年も子供ができないのでよく夫に「石女(うまずめ)」と呼ばれていたことを思い出していた。



 <了> 

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掌編小説・『百合の薫りは怖ろしい』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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