光 207
「ねぇねぇねぇっ、そのカラスって鴉山くんのペットなの?」
「へ⁉︎」
春。
僕は新しい高校にもう一度入り直して、もう一度1年生を始めた。
前の高校に通ったのはほんの2ヶ月ぐらいだったから、高校側に諸事情を諸々話して受け入れてくれるところを探して、編入って言うより高校浪人的な扱いで、僕は年的にひとつ下の子たちと4月に新たに入学し直した。
ここもすごくすんなりコトが運んだから、多分天ちゃんのお友だちの神さまが絡んでるんだと思う。
今回色々やってくれたのは、天ちゃんじゃなくて僕の父さんになった鴉。
変わる。
どんどん変わる。
僕も鴉も現実も。
踏み出した最初の一歩から、どんどん。
男子校はちょっとトラウマだから、今回は共学。
まだ学校は始まったばっかりだし、ずっと鴉と天ちゃんの3人………ってかーくんもいっちゃんもきーちゃんも居るけど、超少人数の毎日だったから久しぶりの学校、大人数に前の感覚が戻らない。
で、人の多さにちょっと休憩〜ってお昼休み、教室から出て日向ぼっこをしながら中庭で鴉が作ってくれたお弁当を食べてた。
かーくんと。
かーくんは今、山をおりて僕たちのマンション近くに住んでる。
天狗山のボスは天ちゃん曰く、引退したらしい。
………僕のために。
そして、僕が学校に居る間は学校に居てくれて、僕の話し相手になってくれてる。
のを、誰かに見られたらしい。
誰⁉︎って声の方を見たら、そこには出席番号順で僕のすぐ後ろの菊池くんが居た。
菊池くん。菊池亜生(あおい)くん。
ここ半年ぐらいで天ちゃんに『ぴかるん、たけのこなの⁉︎』って言われるぐらい成長期の僕が、ちょっと見下ろす小柄な子。
僕も女顔だけど、菊池くんも相当。めちゃくちゃかわいい。
その横には、ひょろって背の高い、眼鏡&マスクの子。
菊池くんとよく一緒に居るのを見る子。
確か………鍔田(つばた)くん。鍔田明(つばためい)くん。
前髪が長いし眼鏡だし絶対いつでもどこでもマスクしてるから、鍔田くんの顔は実はよく分からない。
もうあったかいのに、ブレザーの下にまだセーター。体育はいつも見学。授業もちょいちょい居ない。
身体が弱いのかも。
「えっと………ペットっていうか………友だち?」
「友だち⁉︎カラスが⁉︎」
「うん。かーくんって言うんだ。ほら、かーくん。同じクラスの菊池くんと鍔田くん」
かーくんにふたりを紹介したら、かーくんは頭をぺこって下げてから、クワって挨拶をした。
それから。
それからなんだ。もう本当にかーくんに感謝。ありがとうっていっぱい言った。
僕は、菊池くんと鍔田くんと仲良くなった。
友だちに、なった。
春、4月。
二度目の高校1年生。
中3のとき、母さんが死んだ。
それから父さんが家に帰って来なくなった。
入ったばかりの高校で、何人もの先輩たちに犯された。
だから、死のうと思った。
まだ子どもの、この年の僕がこんなことを言うのもどうかと思うけど、人生は何が起こるか分からない。
死のうと思った僕は、死ぬために入った天狗山で天狗の天ちゃんに出会い、戸籍上のお父さんになった鴉に出会い、カラスのかーくん、ひとつ目のいっちゃん、気狐っていう妖狐のきーちゃん、猫又のまーちゃんに出会って、生命というものを、生きるということを教えてもらった。知った。
母さんは死んだ。
父さんは失踪した。
頼れる親戚は居なくて、僕はひとりになった。
「また明日ね」
「うん。また明日。ばいばい」
「ばいばーい」
1回目の高校とは違って、かーくんのお陰で2回目は無事、友だちができた。
もっともっと高校生活をエンジョイして青春しなきゃだよ‼︎って天ちゃんに言われて、僕は困った。悩んだ。
禁止されてるけど、アルバイトがやってみたい。
僕は養われてる身でお金がかかることはまだ抵抗があるから。
なら、自分でお小遣いぐらい稼ぎたいな、とか。
でも、禁止されてるし、部活も気になる。部活もやってみたい。
どうしようって悩んで、鴉や天ちゃんに話して、とりあえず見て来たら?って言われて部活を見に行った。
見に行って、気になったのに体験入部して、これやってみたい‼︎って。
お金、かかるんだけどね。
でも、カッコいいって。
そこでまた鴉に相談したら、それやれって、あっさり。
すごいよね。
僕に友だちができて、さらに普通に部活まで始めようとしてる。
決めた部活はアーチェリー。
楽しみだった。楽しかった。
学校が、高校が、毎日が。
「ただいま〜」
新しく鴉と住み始めた、天ちゃん所有のマンション。
リビングダイニングにつながるドアを、まだ慣れない照れ臭さと一緒に、開けた。
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