鴉 207

 光の父親は、その後見つかることはなかった。






 生きてると思うよって、天狗は言った。



 生きてはいるよって。






 どこで、どんな風に。






 それは、聞かなかった。



 俺が聞いたところで、だし、本人が望んでそうしたのなら、どんな結果であろうと、それは本人の責任だ。



 例え今、どんな状態、どんな状況でも。






 今がどんなでも、同情なんかしない。



 俺の小さいのを傷つけたやつに。悲しませたやつに。






 探したい?って天狗は光に聞いて、光は首を横に振った。






「冷たいって言われても、僕は探したいとは思わない」






 警察も、光や家の近隣住人、父親の会社の人の話から事件性はないと判断したらしい。



 つまり、積極的な捜索はしない、と。



 光もそれで納得した。






 しばらく、光発見と父親の失踪は世間を賑わせた。



 連日ニュースは光だった。また。



 天狗も、光を保護した善人ホストって騒がれてた。



 店に色んな人が来て困るんだよね〜って、天狗は全然、困ってなさそうに言った。






 その間、騒がれてる間、光は天狗山で『生き生きと静かに』暮らして、その間に俺と養子縁組をした。






 そう、光は俺の名字だっていう『鴉山』光になった。俺たちは親子になった。






 とはいえ、光の父親と縁が切れたんじゃないから、もし光の父親が見つかったら、現れたら、光の父親は光の父親だし、俺は俺で、光の『養父』。



 父親が2人ってことになるらしい。






 きっともう、本当の父親が光の前に現れることはないと思うけど。






 ニュースが落ち着いた頃に、俺たちは3人で引っ越しをした。



 それは俺の働き口のためであり、光の高校編入のためだった。



 天狗山から通うとなると、どうしたって天狗の力を頼らざるを得ないから。



 それをなくすために。



 山の麓だと、光のことを知っている人が居るかもしれないってことで、県を出た。






 新居は天狗の勤め先があるところの比較的近く。



 そこに、驚きなことに、天狗は天狗が大家のマンションを持っていた。



 一部屋はすでに天狗がダミー部屋として使っていて、もう一部屋ちょうどこないだ空いたからって、俺たちに。






「天ちゃん不動産いっぱい持っててお金持ちだから、家賃は要らないよ〜?」






 いっぱいって何⁉︎って光が驚いてた。






 三階建て。2LDKのマンション。



 天狗は2階、俺たちは3階。



 週に1回は天狗山に帰る。そんな生活。






 俺の働き口も光の高校も、マンションから行けるところで探した。



 学費は天狗が。






「鴉の子どもってことは天ちゃんおじいちゃんじゃん?かわいい孫のためなら、おじいちゃん何でもしちゃうよ〜?」






 前に光が行っていた高校は、どうやら元々評判の良くない高校だったらしい。



 光は家を出る必要があったからそこにしただけで、出る必要のない今回、3人で相談して近くて評判の良いところを選んだ。






「………ぴかるんって賢い子だったんだね。天ちゃんびっくり」

「………勉強しかやることがなかっただけだよ」






 学校を知らない俺にはよく分からないけど、新しい高校は光に合ってるらしく、毎日楽しそうに通っている。



 部活やりたい‼︎って。目を輝かせて。






 そして俺は、『杏奈さん』に紹介されて、新しい家から通えるカフェのウェイターを始めた。



 今は慣らしで週3。合間に『あっちゃん』の弁当屋や『杏奈さん』の雑貨屋を手伝っている。






「ただいま〜」






 新しい家。



 夕飯の準備をしてたら、光が帰って来た。

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