光 205

 天ちゃんが、誰かに呼ばれて病室を出て行った。



 看護師さんなのか、おまわりさんなのか。






 ノックされて天ちゃんがはあいって返事をしたら、ドアが開いて鴉山さんって。女の人の声。






 鴉山さんって誰?って、一瞬の間。






 あ、天ちゃんのことかって天ちゃんを見たら、あ、オレかって天ちゃんも。



 声には出てなかったけど、顔が言ってた。『あ』って。




 


 ちょっとお話を伺ってよろしいですか?なんて言われて、行っちゃった。






 やたら広い病室にひとり。



 大部屋じゃないこういう個室って、高いんじゃないの?って、変な心配。



 でも、大部屋じゃ僕は多分、迷惑なんだよね。扱いが事件レベルだから。






 天ちゃんが居なくなって、静かな部屋。






 やることがなくて、僕はベッドにごろんって転がった。






 ひとりって、久しぶりだ。



 天狗山に行ってからは、いつも誰かと一緒だったから。



 鴉かかーくんかいっちゃんかきーちゃんが。






 みんな今、何をしてるんだろう。



 鴉は今。






 ………何をしてる?







 もぞもぞごそごそして、ズボンのポケットに入れておいたスマホを取り出す。






 鴉からの連絡は、なかった。






 ………そろそろ、何か送った方がいい?






 って、ちらって思った。時計を見て。時間を確認して。



 でも何も。



 ただ交番から病院に来ただけ。何の進展もない。



 なのに、連絡したってね。






 そう思ったら、何もできなかった。






 僕はごろごろしながら、天ちゃんからもらった鴉の写真や、僕が撮った鴉の写真や動画を見てた。



 見てる間に、僕はいつの間にか、うとうとしてた。












 ふわって。



 空気が動いた気がした。



 ふわって。



 頭に触れられる感触があった。






「………鴉?」






 僕の頭に触れる、撫でるって言ったらそれは鴉。






 やたら重く感じる瞼を、それでも必死に持ち上げた。



 そしたら。






 白い部屋。



 白が眩しい部屋。






 すぐ横に、天ちゃんが居た。



 鴉じゃなかった。






「ごめん、天ちゃんだよ」






 珍しい。



 珍しかった。



 天ちゃんが僕に触れるって。僕を撫でるって。






 だから、かな。






「………父さん、見つからない?」






 天ちゃんの珍しい行動に、何でかそれが、結びついた。






 びっくりしてる天ちゃん。






「………他に誰か、頼れる親戚の人いる?」






 小さい声。



 眉間に寄ってるシワ。



 僕の頭に乗ってる手。






 父さん。






「………居ないよ」






 父さん。



 結局捨てるなら。僕を。



 捨てるだけなら。迎えに来る気がないのなら。






 ………何で僕を、探すふりなんかしたの?






 見えてる天ちゃんや病室が、ゆらゆらって揺れた。

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