光 204

「そういえば天ちゃん、今日はいつもつけてるネックレスとかがないね」

「ええ⁉︎今⁉︎それ今気づいたの⁉︎」

「え?あ、うん。今気づいた」

「もしかして誰も何も言わなかったのって、誰も気づいてくれてなかったから⁉︎」

「………あー。………そう、かも?」







 そう言えば、いつから外してるんだろう。



 朝はあったような気がする。してた。






 ベッドに座って、病院の無駄に広い、トイレやお風呂やソファー、テレビに冷蔵庫に収納棚がある個室の、ソファーに座る天ちゃんがいつもと違うなあって見て、本当に今、天ちゃんといえばな金ピカアクセサリーがひとつもついてないことに気づいた。ひとつもだよ。






 服も。



 服もいつもと違う。



 天ちゃんの服は、仕事に行くときはちょっと………だいぶ?派手なスーツ。



 そして、涼しいを通り越して寒くなった最近の普段着はもっぱらだぶだぶしたスウェットの上下。



 暑いときはTシャツにハーフパンツだった。甚平とかもあった。






 金髪に金ピカアクセサリーにその恰好だから、知らないひとなら近づかない。近づきたくない。



 なのに今日は。






 髪の毛が金色だからどうしたって一見近寄りがたい雰囲気なんだけど、それでも今日は黒のジャケットに白のTシャツ、やたら脚の長さが強調される黒の細身のパンツ。






 天ちゃんってやっぱり、鴉とは別ジャンルのイケメンだ。



 しかもめちゃくちゃスタイルがいい。






 ………何でうちの人たちって無駄に背が高くて無駄に脚が長いんだろう。






 平均身長に全然届かない自分がちょっと悲しい。






 ってちょっと待って‼︎僕今天ちゃんと鴉を『うちの人たち』って‼︎






 どうして僕は自爆の墓穴思考なんだろう。






 僕は、天ちゃんにバレないよう、うひゃあああってひとりでこっそり恥ずかしさにのたうちまわった。






「いつもの恰好でぴかるん連れてたら、何もしてなくても犯罪のにおいがしちゃうでしょ」

「………天ちゃん」

「ん?」

「………自覚あったんだ?」

「ちょっとぴかるん‼︎何かそれ微妙にぐさっと来るんですけど⁉︎」






 天ちゃんがちょっと怒って、僕は笑った。ごめんごめんって。



 そしてありがとうって。






 色々考えてくれたんだよね。



 僕のために。これからのために。






 ありがとって言ったのに、天ちゃんはもうってまた。怒ってる。






「そんなにかわいく言われたら許しちゃうに決まってるでしょ⁉︎ぴかるんってば見た目もめちゃくちゃかわいいけど、存在が既にかわいいのよねっ‼︎おまわりさんとか看護師さんとか見た⁉︎かなりの確率でぴかるんを二度見かガン見してたわよ⁉︎」

「えー?気のせいじゃない?」

「気のせいなんかじゃないわっ‼︎天ちゃん何回も見たものっ‼︎この目でしっっっっっかりとっ‼︎」






 絶対気のせいだと思うけど、見たのは僕じゃなくて天ちゃんでしょって思うけど、僕はそれ以上言わなかった。



 拳を握って何故か作り込んだおねぇ口調の天ちゃんは、多分そっとしておいた方がいい。






「もう出てるかもね」






 そっとしておいたら天ちゃんが、ふと思いついたように病室の窓から外を見て言った。






 出てる?






「何が?」

「ぴかるん保護の速報」

「………」






 今の今までふざけてたのに、一気に真面目声なのはずるいと思う。






 僕保護の速報。






 そうだよね。探してますって顔を公開されたんだから、見つかったら見つかりました、だよね。






「………父さんは」






 父さんは、どうなんだろう。






 父さんにも、連絡が行ったのかな。



 もしニュース速報がもう出てたら、それを見た?






 保護者の方に連絡取ってますからねって、言われたのはどれぐらい前だろう。






 何で僕は。



 父さんは来ないし見つからないよ、なんて。



 思ってるんだろう。






 それは、直感にも似た。予感って言うか。






 父さんに関しては、『良い』思いが何も浮かばない。浮かんで来ない。






 諦めとか、そんなの。マイナスしか。






「今連絡してくれてるから、もうちょっと待とう?」

「………うん」






 天ちゃんの言葉に、返事をしてみたけど。






 待つだけ無駄かもしれない。って。僕は。



 ひとり、思っていた。

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