鴉 204
光は今どうしてるんだろうか。
居間のソファーに座って、俺はバカみたいにぼけっと鳴らないスマホを見てた。
きっとバタバタでしばらく連絡できないと思うって、天狗が言ってた。行くときに。
そうだろうと思う。
あれだけニュースでやってた行方不明者が見つかったんだ。
保護されて色々聞かれて、健康状態とか調べて。
スマホのロック画面を解除して、俺は写真のフォルダを開いた。
そこには怒られながら撮った大量の光の写真。
光の居ない家に、気持ちが落ち着かない。
写真でも見れば少しでも落ち着くかと思ったけど、無駄だった。落ち着かない。
落ち着かないどころか、余計。
余計に光が居ないって。俺の横に居ないって。
俺にくっついてる小さいの3人も、心なしか元気がないように見えた。
光もこんな気持ちだったのかも知れない。
俺が初めて山をおりた日。
帰ってきたら家中キレイになってた。光が俺の居ない間に掃除したって。
光は賢い。
その方がいい。
こんな風に何もせず連絡を待ってるだけより、身体を、手を、頭を違う方に動かしてた方が健全で時間の経過もきっと早い。
そして光は強い。
あんなに小さいのに、それができる逞しさがある。
できない自分。
分かっててできてなくて、じっと座ってる俺。
下手すると夕方までかかると思うから、ご飯食べてて。
それも天狗が言ってた。
しかも、サンドイッチを作って行ってくれた。
それを俺は、まだ食べていない。
時間は過ぎる。
いつもの倍以上の遅さで。
それでも過ぎて、昼近い。
お腹もすいた気がする。
なのに動けない。
光が来る前の、これが普通。
俺ってこんなにも、こんな人間だったんだな。
光に出会ってから、俺は本当、新たな毎日と自分との出会いでしかない。
こんな毎日があったのか。こんな自分が居たのかって。
ほぼすべての初めてが、俺には光。
だから。
俺にとって光は、一番の存在。
この先、どれだけの時間が過ぎたとしても。
「………サンドイッチ、食おう」
俺の小さいのが戦ってる。
これからのために、勝ちに行ってる。
なのに俺がこれじゃあ、な。
サンドイッチを食べよう。
ちゃんとコーヒーをいれて。光がおいしいって言うコーヒーを。
食べたら片付けて、夕飯を作ろう。たっぷりと時間をかけて。天狗はきっと、疲れて帰って来るから。
今日は、光は帰って来ない。来られない。
それでも、光の分も。
光がエネルギー源だな。俺の。
思って笑う。
仕方ないだろ。
光が一番の、光一って俺は、存在だから。
こうなることは、決まってたんだよ。最初から。
思って笑って。
スマホを握ったまま、俺は立ち上がった。
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