光 203

 ひゅうって天ちゃんの風に目を閉じて、次に開けたらそこは。






 山の入り口付近、だった。






 どきんって、なった。



 見えた、アスファルトの道路に。






 思わず、隣に立つ天ちゃんの腕をつかんだ。しがみつくみたいに。






「大丈夫。天ちゃんが居るよ」






 一気に押し寄せて来た不安に、天ちゃんの言葉。声。






「ぴかるん、1回深呼吸しよっか」






 吐いて〜、吸って〜って天ちゃんに合わせて、僕は大きい呼吸を何回かした。






 天ちゃんに来てもらって正解。



 鴉に居てもらったらもっと心強かったと思うけど、こういうのは天ちゃんだからこそ落ち着けるんだと思う。






「よし、大丈夫」

「………うん。ありがと」






 ほら。



 僕の何かを感じ取って、言葉をくれる。声を変えて。色んな声で。






「交番の近くまで飛んでも良かったんだけどね〜。ちょっと歩いた方がリハビリになっていいかと思って、ここにしてみた」

「うん。僕も、多分その方がいいと思う」






 深呼吸と天ちゃんで持ち直した僕は、つかまってた天ちゃんの腕から手を離した。



 そして、触れる。ミサンガに。






 今度は僕の番。



 僕が頑張る番。



 ただいまって戻ったときに、鴉に頑張ったなって言ってもらえるように。






 天ちゃんは、僕が一歩踏み出すのを待ってくれてる。行こうって言わない。急かさない。



 それに、もしここでやっぱり行きたくない、山に帰るって言っても、きっと天ちゃんは怒らない。



 じゃあ帰ろうって、連れて帰ってくれる。そして、頑張ったね。ふもとまで行けたねって言ってくれる。






 よしって、僕は踏ん張った。



 気合を入れるために、ほっぺたを両手でぱんぱんした。






 今度は僕の番。



 僕が鴉に見せる番。山をおりた僕を。






 僕は、見えてるアスファルトの道路に向かって、足を踏み出した。











 結論を言うと、結果的に、天ちゃんの言う通りだった。つつがなくって。






 めちゃくちゃどっきんどっきんしながら、山から街中までの間にあった交番に、僕たちは行った。



 説明はほぼ全部天ちゃんに任せた。



 おまわりさんはものすごくびっくりして、すぐにどこかに連絡をした。






 その後は本当スムーズに。



 もっとごたごたとか、天ちゃんが誘拐犯に疑われたりとかも全然なくて、ものすごくスムーズに、僕は天ちゃんとパトカーに乗せられて病院に連れて行かれた。



 精密検査は明日やりますって、今日は簡単な診察だけで個室に案内されて、その間、天ちゃんがずっと付き添ってくれてた。



 それをおまわりさんも病院の人たちも許してくれてた。






 正直、ありがたかった。






「お疲れさま、ぴかるん。後でおやつ持って来てあげようか?」

「んーん、大丈夫〜。ありがと〜、天ちゃ〜ん」






 ぼふってベッドにダイブした僕に、天ちゃんの穏やかで優しい声。






 疲れた。



 久しぶりの、たくさんの人に。



 そして。






「鴉がくさいって言ってたのが分かる気がする〜」






 言った僕に、天ちゃんがあははって笑った。

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