光 202
鴉が僕を呼ぶたび思い出す。
僕はひかり。『あの』ひかり。
鴉の存在が僕に言う。
僕が一番。
恥ずかしいよ。
思ってて、考えてて恥ずかしい。
それに、心のどこかでまだ思うんだ。完全にはなくならない。僕なんてって、やつ。
先輩たちにされたことも、完全には忘れられない。
ふっと記憶に、頭に、思考に浮かんでくる。
母さんが生きててくれれば、父さんが居てくれたら、誰かが、先生が助けてくれたら。
いくら過ぎ去ったことでも、今起こってることじゃなくても、実際にあったことだから覚えてる。
普段は奥底に沈んでて思い出しもしないのに、急にそれはぽこって出てきちゃう。もう勝手に。
出てきて、つられて思う。僕なんて。僕なんか。
でもさ。
『光』
鴉に呼ばれたら、そういうのは全部、眩しいひかりで塵になる。消える。跡形もなく。
僕は光。僕はひかり。
僕という存在はひかりで、誰かの、僕の大切な人の一番の存在。
「ぴっ………ぴかるんがまぶしいっ………」
「へ?」
「………?」
かーくんのすりすり攻撃を右側のほっぺたに受けながら、天ちゃんに買ってもらった服を2日分ぐらい持ってっていいか聞きに来たら天ちゃんにそう言われて、天ちゃん変な人になってるなあって思った。
「じゃあ、行ってきます」
4ヶ月ぐらい、か。もう5ヶ月近いのか。
使わせてもらってた部屋を、僕なりにキレイにした。
これなら、押し入れを開けなきゃ僕の部屋って分かんない。
………すごいよね。ここは天ちゃんと鴉の家で、僕の家じゃないのに、僕の部屋とか言っちゃってるって。
少し前まで部屋にはかーくんたちも居た。
でも今は居ない。
ラブラブなふたりを邪魔しちゃダメだよ?って天ちゃんが連れてって、居間に行った。それから来てない。
ラブラブじゃないから‼︎って、つい反応っていうか反論しちゃったけど、それはそれで、え?ラブラブじゃないの?って思っちゃって僕は自爆した。
やめよう。そういうことは考えちゃいけない。僕にはちょっと、まだ早い。リハビリが必要なんだよ。だから置いといて。
さっき、名前の話を聞いてから、顔がまた少し変わった鴉。
変わっただけじゃない。
それまでまた小さい子化して、僕の服をつかんでくっついて歩いてたのに、名前の話後にはそれもなくなった。
僕の中でどしってしたものがまたひとつできたように、もしかしたら鴉もそうなのかもしれない。
名前って、すごいんだね。持ってる力みたいなのが。
「鴉が昔着てた服、ひとつ借りてくね」
鞄に入れた服のひとつは、鴉の服。
何かね、持って行きたかった。
持って行ったから何、着たから何、なんだけどね。
鴉のにおいだってしないんだけどね。
でも見たらさ、着たらさ、鴉の存在を感じたらさ。
それでまた思い出せるじゃん。
僕はひかり。『あの』ひかり。
僕は鴉の一番の存在。
「俺はもう着れないから、光にやる」
「確かに鴉はもう着られないけど………天ちゃんがとっとく‼︎って言いそう」
「………それは………否定できないな」
「でしょ」
鴉は天ちゃんの最愛の息子だもんね。
鴉が、いつものように僕の頭をぽんぽんする。
その手を、僕は両手でつかんだ。
デカくて熱い、鴉の手。
「………本当は、行きたくない。ここにずっと居たい。どうなるんだろうって、すっごいこわい」
「………うん」
「でも、このままじゃダメだから」
「………うん」
勝って来いって、天ちゃんは行った。
これはある意味、弱い僕との戦いだから。
その僕と戦って、勝って。
「何かあったら、天狗を呼べ」
「………うん」
「連絡する。だから光も」
「………うん」
ちょっとだけ鴉にぐいって引っ張られて、わわってちょっとだけ近づいた鴉に、僕は頭のにおいを嗅がれた。
「鴉💢」
「におい溜め」
「もうっ‼︎何それ‼︎」
少しの間、鴉は僕の頭に鼻を埋めてて、僕は鴉の手を握ってて。そして。
大好きなみんなに見送られて僕は。
死にに来た山を、生きて。
おりた。
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