鴉 201
光一って名前。
光に一で光一って名前を聞いて、ああ、光が一番だって、ものすごい普通にそう思った。だから言った。そしたら光が僕が1番はやめてって。
「え?何で?超いい意味じゃん〜」
「………イヤだ。やめない」
「天ちゃん‼︎鴉も‼︎他にも何かあるでしょ⁉︎」
「何かって〜?」
「ええっ⁉︎えっと………えーと、いっ…1番光り輝くとか⁉︎」
「え〜?ぴかるんが一番の方がいいなぁ〜」
「は⁉︎ちょっと天ちゃん‼︎」
「だ〜って〜」
しかも光がいちばんって言った途端に俺の手を離そうとした。
だから俺が握った。離れないよう握った。
仕組みは謎。名前の。
天狗が言った名前は仮の名前らしい。変えられる名前。好きに変えていい名前。
この辺はよく分からないから深くは考えない。考えても考えるだけ無駄。
その仮の名前が、もっと変な名前だったら変えることを考えたかもしれない。
でも、全部入ってる。
鴉も山も光も。
俺は先代のボスガラスに見つけられて拾われて、この天狗山で天狗に育てられて、光を大事に思う気持ちを知った。
全部入ってる。
全部入ってる名前を。変える理由なんかどこにもない。
「仮名だからさ、変えられるんなら何でもいいじゃんって、最初『山田太郎』にしようとしたんだよ、オレ」
「………天ちゃん………山田太郎て」
「………」
光の呆れ声に、あははーって天狗。
俺もさすがに、もしその名前だったら。
変えるのを前提につけられてたら、変えてたかも。
「だって〜、実際使うかどうかも分かんなかったからさ〜?そしたらおりちゃんにめっちゃ怒られたんだよね」
「おりちゃん?」
「………おりちゃん?」
「あ、神さまの名前。おりは。神田織波っていうんだよ」
出た。
前にもちらっと聞いた、謎の『神さま』。
「神さまに名前?」
「うーん、まぁ、人間っちゃ人間だからね」
「え⁉︎人間⁉︎人なのに神さまなの⁉︎」
「そうみたいよ〜?オレもよく分かんないんだけど、名前は神さまでしょ?」
「へ⁉︎名前⁉︎」
「かんだおりは」
「………天ちゃん、それのどこが神さまなのか、僕には全然分かりません………」
光が俺も疑問に思うことをどんどん聞いてくれるから、俺はただひたすらそれを聞いてた。
光の手を握ったままではあったのに、さっきより格段に落ち着けたのは、名前を聞いたから。
光って字が俺にもあって、その名前をどうやら神さまが考えてくれたから。
すとんって。なった。どこかぐらぐらしてたのが。おさまった。
名前が、何て言うのか。
軸になった、ような。
「かんだおりは、かんだおりは、かんだおりは………かみだ。おれは。で、神さまなんだって」
「………」
「………」
「ふたりしてそういう顔しな〜い‼︎本当なんだって‼︎本人がそう言ってたの‼︎オレが言ったんじゃないよ⁉︎」
本当に神さまなのか。それは。
って思ったのは、どうやら俺だけじゃなく光もらしい。
思わず光と顔を見合わせた。
光か微妙な表情をしていた。
「本当だってば‼︎で、山田太郎は絶対ダメ‼︎っておりちゃんに言われて」
「………うん。よく見本とか例にあるやつじゃね………」
「違うよぴかるん」
「へ?」
「よく見本や例にある名前だからじゃなくて、あ〜ぴかるんは知らないかな。山田太郎っていう伝説のボクサー?格闘家?そんな人が実際居たんだよ」
「で、伝説?」
「そ。ある日彗星のようにデビューして、そのまんま全試合1発KOでチャンピオン。なのにその後1試合も勝てなくて消えた。と思ったら何年後かにまたまた全試合1発KOチャンピオン。山田太郎復活‼︎って大騒ぎになった次の日」
「次の日?」
「山田太郎は星になった」
「………え?」
「試合の影響なのか何なのか、山田太郎は永眠」
「………」
「………」
「それでね、伝説。華麗なる復活からの〜だったから。一時期めちゃくちゃニュースでやってた。結構なイケメンだったってのもあるからね。おりちゃんその人のこと好きだったからね。その名前だけは許さん‼︎って」
「………」
「………」
どこまでが本当でどこまでが。
冗談や作り話ではないのかもしれないけど、何とも。
光を見ると、光はやっぱり微妙な顔のままだった。
「じゃあ、鴉山光一ってのはどこから出てきたの?」
「それねぇ。実は神さまの考えることってよく分かんない。けど、これにしろって。山田太郎を却下されて、じゃあ何にしろって言うの?って聞いたら、ちょっと考えて鴉山光一って」
「へぇ〜」
「………」
「あ、そういえば、この名前で決定していいと思うって言ってたなぁ。もしかしたら分かってたのかもね。鴉がいつかぴかるんに出会って恋をするって」
「ちょっ………天ちゃん‼︎」
不思議な話。
嘘のような、不思議な。
「それは………いつの話?」
「まだ鴉が小さい頃。色々黙っててごめんね。でもさ、鴉がどう生きてくかって、オレ強制はしたくなかったんだよ。鴉はどうしたって、この天狗山に捨てられた人間。天狗のオレが育てた人間。それは変えられないじゃん?でも、どうするかは、どう生きてくかは全部、鴉に決めて欲しかった。だから、何を選んでも大丈夫なようにだけしといて、黙ってた」
ごめんねって。
天狗がまた。
「………全然、ごめんじゃない」
逆だ。
人間なのに、捨てられてたのに、見つけたからって拾ってくれて、育ててくれて、しかも………大事に。
「だからね、ぴかるん。神さまがつけてくれた名前で、つけられた本人が光一って聞いてぴかるんがいちばんって意味だって思ったんなら、それが多分正解なんだとオレは思うんだ」
天狗はそう言って、光はうぐぐって変な声を出して黙った。
「俺の名付け親が、まさかの神さま、か」
「そう、まさかの神さま。すごいでしょ」
「………ありがとう、天狗」
「え?オレ?」
「天狗だよ」
もちろん、名前をつけてくれた神さまにも、だけど。
すべては天狗が俺を拾ってくれたことがスタートだから。
「………鴉。顔がまた、ちょっと違うね」
「………?」
顔が、また。
「ええ⁉︎天ちゃんには分かんないよ⁉︎」
光の目に、俺はどううつってるのか。
光は俺を見て、穏やかに笑んでた。
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