光 199
退屈なときとか、イヤなときって、すっごい時間の流れが遅く感じるのに、楽しいときとか、もっとこのままで居たいってときは、めちゃくちゃ早いよね。
ここに来てすぐの頃は、ものすごっっっっっごい遅く感じる日があったんだよ。
居心地が悪いのと、退屈なのとで。
それが今じゃさ。
まーちゃんのお迎えを待って、天ちゃんとからが作ってくれたお弁当を持って、みんなでまず神社に行った。
お供え物をかえてお参りして、次は棘岩。
またちょっとトゲトゲがまるくなってきた気がする岩を撫でてからお弁当を食べた。
明日の今頃には、僕はもうここには居ないんだよ。
鴉。
かーくん、いっちゃん、きーちゃん。
また。
またここに戻る。戻りたい。ここがいい。
改めてはっきりと、そう思った。
今日のお弁当タイムは、いつもより静かだった。
何を話したらいいのか分かんなくて、僕っていつも鴉と何を話してたっけって、分かんなくて。
あまりにも黙々。
話題を探しながら、おにぎりを食べようとしたら。
「光の写真撮りたい」
鴉がそう言った。
昨日、あまりにも撮るから禁止令を出した写真。
禁止令を出してからは、鴉はちゃんとそれを守ってくれて、その後1枚も撮ってない。
何回も何回も見てたけどね。写真。また見てるの⁉︎ってぐらい見てたけどね。
何でそんなに撮りたいんだろうってね。何でそんなに見てるんだろうってね。思ったんだよ。
で、聞いた。昨日。
そしたらさ。
『今がいちばん大事なのは分かってる。でも、もう過ぎた光をこうやって見れるって、何回も、何回でも見れるってすごくないか?』
僕は、写真をそんな風に思ったことがなかったから、ちょっとびっくりしたんだよね。
だから。
「………外に居る間だけね」
いいかって。
時間を切り取って、残しておく。
鴉がしたいのは、そういうこと。
「………え」
「………僕も鴉撮るからね」
流れていくだけの『今』って一瞬を切り取って残す。
残したいのは。
大事だから。大切だから。
「好きなだけ撮っていい」
鴉はそう言って、言いながらもうスマホをズボンのポケットから出して、好きなだけ撮っていいから、好きなだけ撮らせろとでも言うかのように、もう良くない⁉︎撮りすぎじゃない⁉︎ってぐらいにまた、僕の写真を撮りまくった。
家に帰ったら、カレーのにおいがしてた。
カレーってテンション上がるよね。
しかも天ちゃんってルーを使わず自分で作っちゃうんだよね。カレー。
しかも今日はそこにハンバーグ。ハンバーグカレーだった。
「天ちゃん、僕の好きなものばっかりじゃない?昨日も唐揚げだったし」
昨日天ちゃんは鴉と僕の好きなものをいっぱい作ってあげるって。
鴉が手を洗いに行ってるときに聞いたら天ちゃんは。
「鴉の好きなもの、何か知ってる?」
「………うーん。そう聞かれると困るかも?鴉って何でもいっぱい食べるから」
「そうだね〜。けどさ?あるじゃん?鴉の分かりやすい大好物」
「え、そうだっけ」
あるよ〜って言いながら、ハンバーグを作る天ちゃんに、分かんないから教えてくださいって降参したら、天ちゃんは。
「鴉のいっちばんの好物はね、ぴかるんのおいしい〜って顔だよ」
「えっ⁉︎」
「だから天ちゃんは、鴉のためにもぴかるんの大好物を作ってるのっ」
こっ………これは。
これは。
これは聞いてちょっと後悔した。
食べて結局おいしい〜ってなるんだろうけど、それを鴉に見られてるかと思うと。
「鴉は本当、ぴかるんのこと大好きだからねぇ」
ハンバーグを作りながら、ぐふふふって笑い出した天ちゃんから僕は天ちゃんその顔きもいよ〜って逃げた。
夜は鴉とふたりにされた。
寝る部屋に鴉とふたりにされた。
ご飯の後片付けも天ちゃんがやってくれて、早くお風呂入っちゃいなってお風呂に急かされて、お風呂から出たらもう部屋に行きなって。
しかもかーくんたちに、今日はふたりにしてあげなよ。そのかわり天ちゃんの部屋来ていいよ〜って。
で、ふたり。鴉と。
帰るのは明日。もう明日。
なのになのか、だからなのか。
いよいよ僕は、何を話したらいいのか分かんなくて。
鴉は元々そんなに自分から話さないし。
黙ったまま、時間だけがするすると流れてく。
どうなるんだろう。
天ちゃんが来てくれるって言ってた。
それでも、どうなるんだろう。
「毎日連絡する」
毎日。
「………うん」
その日はさすがに、僕は全然、眠れなかった。
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