光 196
電話のかけ方やラインのやり方を鴉に教えてた。
って言っても、鴉はタブレットができるから、教えるってほどでもなくて、ここをこうだよ〜とか、その程度。
向かい側から時々変な笑い声が聞こえる視線は、気にしないよう頑張った。
天ちゃんは、僕たちを見て喜んでるだけ。嬉しいだけ。
………そう、だよね?多分。
ちょっと恥ずかしいんだけど‼︎あんまり見ないで欲しいんだけど‼︎変に意識しちゃうんだけど‼︎ってね、すごい思う。
でも、これがさ、天ちゃんへの恩返し的なのになってると思うと。
「今日明日明後日は天ちゃんがふたりの好きなものいっぱい作ってあげるから、ご飯のことは気にしないでふたりとものんびりしな〜」
今日明日明後日。
天ちゃんはやっぱり、たまたま休みだったんじゃなくて、休んでくれたのかもしれないって、思った。
今までに3連休なんてなかったし、明日は鴉の二度目の下山。
明後日は僕が帰る。
そして忙しいって昨日は言ってて、今日は新しいスマホが2台で、ご飯を作ってくれるって。しかも僕たちの好きなやつ。
すんごい愛情。
すんごい愛されてる。
大事にされてる。
優しくされてる。
守られてる。
いいよね鴉って、こういう時思ってたのが、今はない。
だってそこに、天ちゃんのそこに、僕がもう、入ってるから。
のんびり、か。
「ねぇ、天ちゃん」
「ん〜?」
「ここに来て僕は僕の人生史上最高にのんびりしてるから、これ以上ののんびりってちょっと分かんない」
学校も行ってない。だから宿題もテストも何もない。やらなきゃいけないことがゼロ。
初めてだよね、こんな毎日。
僕の正直な気持ちに、天ちゃんがぶはって笑った。
「ありがと、天ちゃん」
「………うん」
一旦のお別れ前の時間を、たっぷりくれて。
それからまた鴉にスマホをレクチャーしてたら、いっちゃんたちが来た。
天ちゃんに呼ばれたとき、一緒に来るかと思ったら来なかったんだよね。
このタイミングで来たってことは、僕たちを3人にしてくれたってことなのかもしれない。
足元にいっちゃんときーちゃん。テーブルの上にかーくん。
「あ、かーくん、いつものダンスしてっ。あれかわいいから動画とりたいっ」
毎日必ず1回はやってくれるかーくんのダンス。
それも少し、なのかしばらく、なのか、お別れだから。
いっちゃんやきーちゃん、天ちゃんもか。まーちゃんもだ。『もののけ組』は撮っていいのか謎。
ほら、もしもの場合。もしものことがあったらダメじゃん。
誰かに見られたら。
天ちゃんはどこからどう見ても人間だからまだいいとして、いっちゃんたちはコスプレとか特殊メイクとか人形とかに………見えない、よね?見えるかな。
僕がかーくんのダンスをとってたら、天ちゃんが言った。
鴉のスマホは、あっという間にぴかるんの写真や動画でいっぱいになりそうだねって。
「えええっ⁉︎僕写真好きじゃないよ⁉︎って何とってんの⁉︎鴉‼︎」
「カラスをとってる光をとってる」
それ楽しい⁉︎かーくんをとってる僕をとって何か楽しい⁉︎
「僕とるなら僕は鴉とるからね‼︎」
少しなのかしばらくなのか。
鴉とも、離れなきゃ、なんだから。
「あっ‼︎天ちゃん‼︎」
「んー?なあにー?」
「鴉の写真あったら送ってくださいっ」
あったら。
タブレットに送ってくれた、鴉の初の下山記念写真や、その他何でも。
「………え」
「わーおー。ぴかるんからまさかの発言っ。どしたのどしたの〜?」
「いいから‼︎恥ずかしいからそこはつっこまないで‼︎写真ください‼︎」
ほんの少しなのかしばらくなのか。
離れても、僕がこの僕で居られるように。
「んふふふふ〜。そう思うかな〜って思って〜、実はもう送ってある」
「え⁉︎」
「………え?」
実はもう。
そうなの⁉︎って僕用のスマホを見たら、天ちゃんとまだやってないはずのラインのやりとりの形跡があって、そこには。
「本当だ‼︎しかもアルバム作ってくれてる‼︎ありがとう、天ちゃん‼︎」
これで頑張れるかな。
スマホがあって、鴉と天ちゃんとやりとりができて、写真があって。かーくんのかわいいダンスの動画も。
隣。
そこで鴉がぴたってフリーズしてて、ちっとも動かないでしゃべらなくて。
「………鴉」
「………」
「めちゃくちゃ恥ずかしいからそこでそんなに固まらないで」
びっくりしてるのかも。
僕が鴉の写真をください、なんてね。天ちゃんにね。鴉の目の前でね。
僕だってびっくりだよ。
天ちゃんにね、鴉の目の前でね、鴉の写真をくださいなんて。
本当。
信じられない。
「まあまあ、ぴかるん。鴉は嬉しいんだよ」
「嬉しい?」
「そ。嬉しい。そりゃ嬉しいでしょ。自分の大好きな人が自分の写真欲しいって言ってくれたら」
え、びっくりじゃないの?
びっくりしてフリーズじゃ。
嬉しい?
自分の大好きな人が、自分の写真を欲しいって。
「………」
「………」
確かに。
それは………嬉しい、か。
「………ったくこの子たちは。この調子じゃ一生『両想い』から進まないんじゃないかしら」
「へ?」
「………」
「何でもな〜い。ほら、天ちゃんご飯の用意するから、ぴかるん固まった鴉連れて向こう行ってて〜」
「手伝うよ?」
「いいからいいから。若いキミたちは向こうでちょっとはいちゃいちゃしてなさいっ」
「天ちゃん‼︎」
「ほら行った行った」
いちゃいちゃって‼︎
いちゃいちゃって‼︎
そんなことしないよ‼︎できないよ‼︎
って反論は、天ちゃんのしっしってゼスチャーにできなくて、僕はすごすごと鴉とふたりで台所を出た。
そして。
「………」
「………」
もう‼︎天ちゃんが変なこと言うから‼︎まともにしゃべれないじゃん‼︎って。
座ったソファーで、変に僕たちは、黙ってた。
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