鴉 196

「今日明日明後日は天ちゃんがふたりの好きなものいっぱい作ってあげるから、ご飯のことは気にしないでふたりとものんびりしな〜」






 光とありがたくスマホを受け取って、光に教えてもらってるのを機嫌良く見てた天狗が機嫌良く言った。






 ああ、天狗はわざわざ休みを取ってくれたんだ。







 昨日いつもより早く家を出たのは、忙しいって言ってたのは、仕事じゃなく俺たち絡みだったのかもしれない。






「ねぇ、天ちゃん」

「ん〜?」

「ここに来て僕は僕の人生史上最高にのんびりしてるから、これ以上ののんびりってちょっと分かんない」






 光がものすごく真面目に答えて、天狗がぶはって笑った。






「ありがと、天ちゃん」

「………うん」






 光がここに来たときからは信じられないぐらい、想像できないぐらい、ふたりの間にあるのは、柔らかい柔らかい空気だった。






 天狗が俺たちを呼んで話をしてたから気を利かせたのか、さっきまで居間にいた小さいのたちが光に集まってた。



 足元にひとつ目と気狐。テーブルにカラス。






「あ、かーくん、いつものダンスしてっ。あれかわいいから動画とりたいっ」






 光に言われて、カラスが光によくやってる求愛のダンスをして、それを光がスマホを構えてとる。






 そうか。とればいいのか。






「鴉のスマホは、あっという間にぴかるんの写真や動画でいっぱいになりそうだね」

「えええっ⁉︎僕写真好きじゃないよ⁉︎って何とってんの⁉︎鴉‼︎」

「カラスをとってる光をとってる」

「僕とるなら僕は鴉とるからね‼︎あっ‼︎天ちゃん‼︎」

「んー?なあにー?」

「鴉の写真あったら送ってくださいっ」

「………え」

「わーおー。ぴかるんからまさかの発言っ。どしたのどしたの〜?」

「いいから‼︎恥ずかしいからそこはつっこまないで‼︎写真ください‼︎」

「んふふふふ〜。そう思うかな〜って思って〜、実はもう送ってある」

「え⁉︎」

「………え?」

「本当だ‼︎しかもアルバム作ってくれてる‼︎ありがとう、天ちゃん‼︎」






 光の発言にびっくりしてた。



 光が天狗に俺の写真をくれって。






 光がそんなことを言うなんて。



 光が天狗に、そんなことを言うなんて。






 俺の写真って。






 天狗は天狗で、もう送ってあるって。






「………鴉」

「………」

「めちゃくちゃ恥ずかしいからそこでそんなに固まらないで」

「………」

「まあまあ、ぴかるん。鴉は嬉しいんだよ」

「嬉しい?」

「そ。嬉しい。そりゃ嬉しいでしょ。自分の大好きな人が自分の写真欲しいって言ってくれたら」

「………」

「………」






 嬉しい。






 そうか。俺は嬉しいのか。嬉しいんだ。






 光が俺の写真を欲しがるなんて。それを天狗に言うなんて、俺が居るところで言うなんて。



 あまりの光らしくない言動にびっくりして、びっくり大きくて、他の感情が飛んでる。






「………ったくこの子たちは。この調子じゃ一生『両想い』から進まないんじゃないかしら」

「へ?」

「………」

「何でもな〜い。ほら、天ちゃんご飯の用意するから、ぴかるん固まった鴉連れて向こう行ってて〜」

「手伝うよ?」

「いいからいいから。若いキミたちは向こうでちょっとはいちゃいちゃしてなさいっ」

「天ちゃん‼︎」






 ほら行った行った。






 天狗が手で追い払うような仕草をして、実際追い出されて、光と居間。



 小さいの3人まで居ない居間。






「………」

「………」






 ソファーに座ったはいいけど、光としたのは、謎の沈黙だった。

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