鴉 183
「あれ?天ちゃん、何か目赤くない?」
「え⁉︎うっそ、そんな分かる⁉︎」
恥ずかしいって突っ伏してた光を何とか部屋から連れ出して台所に戻ったところで、仕事に行くために歯磨きやら髪の毛セットやらを終えた天狗と鉢合わせた。
そこで光が。天狗を見て。
「うん。分かるよ。どうしたの?泣いちゃった?」
「ええ⁉︎そこまで分かる⁉︎」
「え?天ちゃん泣いたの?」
「え?まさかの当てずっぽ?」
「うん。冗談で言ってみたんだけど」
光の恥ずかしがりようからして、天狗とは今日はもっとぎこちなくなるのかと思いきや全然普通で、どうやら色々、俺の取り越し苦労だったらしい。
なら、それはそれでいいけど。
振り回されてるな。俺。この、俺の小さいのに。
夜ご飯、結局光は何がいいんだろうか。
とりあえず米を研ごう。
ふたりのことは、置いとくことにした。
天狗が暴走を始めたら、止めに入ればいい。
「何かあったの?大丈夫?」
「あ〜全然全然。大丈夫大丈夫。ちょっと鴉にね、嬉しいこと言われちゃって、めちゃくちゃ嬉しくてうっかり泣いちゃった❤️」
「嬉し泣き?」
「そ、嬉し泣き。もうね、鴉ってば殺し文句をパレードさせてくれちゃって」
「あ、分かるそれ‼︎殺し文句をパレード‼︎鴉ってものすごい普通に人のことタラすよね⁉︎」
「あ〜‼︎ぴかるんそれ分かる〜‼︎タラすタラす‼︎めっちゃタラす‼︎え、それでぴかるんタラされちゃったの⁉︎」
「そうだよ‼︎うっかりタラされちゃったの‼︎って‼︎何言わすの⁉︎天ちゃん‼︎」
「ひゃはははっ‼︎ごめんごめんっ」
「………」
何て会話だ。
ふたりの会話を聞きながら、俺は黙って米を研いでいた。
好き勝手言われてるな。俺。
まあ別にいいけど。
ちょっとは俺が居ないところで、とか。思って欲しい気も、する。
「お客さんに何か言われない?冷やす?」
「うわ、ありがと〜、ぴかるん。けど店の照明は暗めだから、多分大丈夫。気づかないと思う」
「ならいいけど………」
「やだもう〜、さすが鴉のお嫁さん❤️」
「はへ⁉︎」
「あ、あれ?鴉がお嫁さん?なら、お婿さんか」
「は⁉︎はいいい⁉︎何言ってんの天ちゃん‼︎寝てんの⁉︎」
「え、やだぴかるん。天ちゃんめっちゃ起きてる❤️」
「天狗」
そこで会話に入った。会話にって言うか、間に。
米を研いで炊飯器にセットして、冷蔵庫冷凍庫の中身を確認しながらふたりの話を聞いてて。
天狗がはいって、返事。
うぐって、泣きそうな顔の光。
「光、夕飯の準備、手伝ってくれるか?」
「………うん」
「じゃあ向こうで手洗って来い」
「うん」
天狗に悪気があるわけじゃない。
嬉しいだけ。嬉しくてテンションが上がってるだけ。
だからつい軽いノリで軽いことを言うだけ。
「天狗、遅れる」
「あ、そうだ」
ごめんね?って、天狗が俺に言うから、怒ってない。怒ってるんじゃないって。
いつもの光なら、きゃんきゃん言って応戦できるだろうし。
ただ今日は。
「………天狗」
「ん?なあに〜?ひとつ目ちゃん」
台所に来るとき、後ろから小さいの3人もついてきてた。
カラスは光の椅子の背もたれにとまって、気狐は光の椅子辺りの床に丸くなってた。
ひとつ目は、天狗のすぐ側。
天狗がしゃがんで、それでもまだ小さくて会わない視線を、どうにか合わせようとしてる。
ひとつ目は無言のまま、その小さい小さい手で天狗の目元に触れた。
ふわって、窓も開いていないのに、空気が動いて。
………目を、治してるのか。
「ありがと、ひとつ目ちゃん。………うちの子たちはほんっと、ほんっっっっっと、優しい子たちばっかだね」
せっかくひとつ目が治してくれてるのに、天狗がううって、また泣いた。
「うちの子?」
「………うん。うちの子」
静かに聞くひとつ目に、静かに天狗が答えて。
ふふって、ひとつ目が笑った。
もうイヤだな。
天狗とふたりだけの毎日には戻りたくない。
天狗とひとつ目が笑い合ってるところを見て、そんなことを思った。
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