光 181

 ありがとうって優しい声に鴉を見たら、僕が見てきたここ何ヶ月かの鴉の中で1番、いっちばん優しい顔の鴉がそこに居た。



 で、僕をじっと見てて、ね。






 わわってなった。慌てて鴉の手をつかんでた手を離した。焦って。



 何て顔してんの⁉︎って。



 そんな顔で見ちゃダメだよ。うっかり好きになっちゃうじゃん。………なってるんだけど‼︎すでに‼︎ちょっとそこは突っ込まないで‼︎



 この鴉を見たらみんながうっかり好きになっちゃうってこと‼︎






 心臓がどっきーんってなり過ぎて、めちゃくちゃなって、僕はまた俯いた。






「………ごめんなさい」

「………何が?」

「『これ以上』ができない僕で」






『これ以上』。






 好きだよ、以上。



 あとは手を握るぐらい。



 ハグぐらい。



『それ以上』。






 普通なら、見つめられて見つめてそして………って流れじゃん。



 それが僕には………だから。






「光が俺を好きでいてくれたらいい」






 乗ったままの鴉のデカい手が、わしゃわしゃって僕の髪を掻き回した。






 好きでいてくれたらって、そんなの。






 ………好きだよ。






 って。






 聞こえたかな?



 それさえ分かんないぐらい、小さい小さい声で、僕はもう1回、鴉に言った。











 そろそろご飯の準備しようって、今日何にする?って話しながら台所に移動。



 何がいいかなぁって、今までここで食べてきたものや、ここでは食べてない食べたいものがないかって考えてた。






 後ろからはかーくん、いっちゃん、きーちゃん。






 テンパってあんまり気にしてなかったけど、さっきの鴉とのやりとりって3人とも聞いてたんだよね。






 ………恥ずかしすぎる。






 って、鴉の後ろにいた。ほんのすぐ後ろ。



 そしたら。






「ぱんぱかぱーん‼︎」






 いきなりの天ちゃんの声に、僕はすんごいびっくりして、思わず鴉の背中にしがみついた。






「鴉‼︎ぴかるん‼︎おめでとう‼︎これでますます両思い‼︎いえ〜い‼︎」

「なっ………何っ⁉︎」






 ぱんぱかぱーん?おめでとう?






 何のこと?何?って、テンションが高すぎてイヤな予感しかしない天ちゃんを、鴉の影からちょろっと覗いた。






 こういう天ちゃんは何を言い出すか分かんないからちょっとこわい。






 天ちゃんの口から何が飛び出すんだろうって警戒。鴉を盾に警戒。してたら。



 やっぱり来た。イヤな予感的中。しなくていいのにしちゃった的中。






「やっぱりさぁ?言葉にして想いを伝え合うっていいよねぇ〜。天ちゃんちょっとカ•ン•ド•ウ❤️」






 言葉にして、想いを伝え合う。






 ………え?






 僕の目の前が、真っ白になってぶっ飛んだ。






「聞いてたの⁉︎」

「ん〜?聞いてたっていうか〜?聞こえちゃった?」

「何で⁉︎そんなでっかい声で話してないよ⁉︎」

「あ、それはねぇ、まぁほら、天ちゃんって天狗じゃん?特殊能力っていうの?ほら、あっちには仲間のひとつ目ちゃんも気狐ちゃんも居たしぃ〜。ぴぴぴぴってね、聞こえちゃったんだぁ〜❤️」

「うっ…うそでしょっ⁉︎そんなことできるなんて聞いてないよ⁉︎」

「天ちゃんも知らなかったんだよ〜。だからごめんね、ぴかるん❤️ホ•ン•ト❤️」






 ウソだ。



 そんなのウソだ。いつもの悪ふざけだ。






 にやにや。



 にやにやにや。



 ぐふふふふ。






 ………ぷちっ






「いやあああああっ」






 ウソじゃない。



 これ絶対ウソじゃない。



 悪ふざけな顔だけど、その顔は本当に聞いてたからの顔だ。






 そう思ったら、僕の中の恥ずかしいスイッチがぷちって壊れて、僕は穴を掘って地球の裏側まで行ってやる‼︎って、全力で走って寝る部屋まで逃げた。






「………」






 穴を掘って地球の裏側まで行きたいのに、実際問題それはできない。



 でもどこかに隠れたくて、逃げたくて、僕は押し入れを開けて、下の段に逃げ込んだ。



 鴉の布団はさっき居間に運んだから、僕の敷き布団の上に突っ伏す。丸くなる。






 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしすぎる‼︎



 恥ずかしいでしょ⁉︎恥ずかしいよね⁉︎好きって叫んでるの聞かれたんだよ⁉︎



 その後も、『これ以上』できない僕でごめんなさいとか言っちゃってるんだよ⁉︎






 天ちゃんには前に相談したから、何でできないってことはもう知ってるけど‼︎けどけどけど‼︎






 いやあああああってなりながら、僕は押し入れの中でじたばたしまくってた。











 クワっ






 少しして、ほんのちょびっとだけ落ち着いた僕に、かーくんの鳴き声。






 押し入れの中で敷き布団に丸まってた僕は、ちょっとだけ顔を上げて鳴き声の方を見た。



 押し入れの前に、かーくんといっちゃんときーちゃんが並んでた。






 ………この3人も聞いてるんだよね。



 意味がちゃんと分かってるかは置いといても、聞いちゃってるんだよね。







 うううううって、僕はまた布団に丸まって恥ずかしさと戦った。



 そこに。






 クワっ






 かーくん。






 きゅう






 きーちゃん。






「ひかる」






 いっちゃん。






 狭い押し入れの中に3人が入ってきて、それぞれが僕にくっついた。






 あったかい。






 その温もりにじんわり癒されて、落ち着いてくる。






 ふうって息を吐いて、うるさくしてごめんねって、3人を撫でた。

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