鴉 179

 光はすぐ敷布団を抱えて戻ってきた。



 そしてソファー前のローテーブルを退かして敷いてくれた。



 先に持って来てた掛け布団を半分に畳んで敷布団の上に置いて、いいよって。






「かーくん、どうしたの?」






 そこで光はカラスが気になったらしい。



 さっき俺が光は俺のだ宣言をしたから落ち込んで、下を向いてるカラス。






 小さい光が小さいカラスの頭を撫でる。



 カラスはクワって小さく鳴いた。






「落ち込んでる」

「落ち込んでる?」

「俺がさっき、光は俺のだ。お前にも、誰にもやらないって言ったから」

「は⁉︎ぅえええええ⁉︎なっ…………なっ、何言ってんの、鴉‼︎」

「本当のことを言ってる」

「ほっ………本当のこと⁉︎」

「本当のことだ。違うのか?」

「え?えええええっ⁉︎」






 光がきゃんきゃん言うのは、恥ずかしいから。



 いちいち恥ずかしがらなくてもいいのに、すぐ光は恥ずかしがってきゃんきゃん言う。






 俺が拾った俺の小さいのは、本当恥ずかしがり屋だ。






 光は俺が拾った小さいの。俺の小さいの。



 俺が世話する小さいの。誰にもやらない。カラスにも。






 俺が拾ったから俺が世話をする。



 俺が天狗にしてもらったように。それ以上に。






 でも今は。






 ソファーから立ち上がって、光の腕をつかんで、寝るって。寝るぞって言った。






「鴉っ………やっぱり僕一緒にはっ………」

「今日は光を抱き枕にして寝るって、ずっと決めてた」

「勝手に決めないでっ」

「………鼻の奥がまだくさいから、光のにおいで消したい」

「………う」

「一緒に寝てくれるってさっき言った」

「………うぅ」

「頭も」

「………ううぅ」

「光と寝る。寝たい」

「………ううううううぅ」

「………イヤか?」






 光がぎゅって目を閉じて、俺がつかんでない方の手で顔を覆って唸ってる。



 イヤじゃないと、思いたい。



 ただ恥ずかしいって思ってるだけって。






「………僕が言ったんだもんね」






 ふうって息を吐いて、笑う。そんな風に言われたらさって。






 もう決めてた。帰って来る前にもう。



 今日は光を抱き枕にって。






 こっちって、光を布団の左側に来るよう布団を叩いた。こっちって。



 光はうんって左側に来て、ころんって。



 その横に俺は横向きに、光の方を向いて転がった。掛け布団も引っ掛けて。






 そして、もぞもぞもぞ。



 もぞもぞもぞもぞ。






 しっくりくる場所を求めて動く。






 しばらくもぞもぞして、ここってなったのが、光のお腹あたり。



 光の腰らへんに腕を絡めて、そのお腹に顔を埋めた。






「これで寝るの⁉︎」

「これで寝る」






 目を閉じる。






 光の体温とにおいが心地いい。






「光」

「ふぇ⁉︎」

「頭」

「頭?」

「さっきみたいに」






 天狗に時々頭を撫でられる。



 髪の毛をかき混ぜみたいにくしゃくしゃって。



 それと、さっきの光がやったのは、違った。



 光は俺の髪を梳くみたいにやった。



 心地良かった。気持ち良かった。







「鴉、小さい子みたい」






 光がふふって笑いながら。



 しょうがないなあって、言いながら。






 一定のリズムで、頭が撫でられる。






 光の手が髪を滑るたびに、俺は眠りに、一段また一段って、落ちていった。






 お疲れさま。






 そんな俺の耳元。



 夢なのか現実なのか。



 夢かもしれないし現実かもしれない。



 そんな耳元。






 聞こえた気がした。







 カッコよかったよ。






 聞こえた気がした。






 鴉。






 好きだよ。






 それも聞こえた気がして。






 夢じゃなければいい。



 今の言葉が夢じゃなくて現実だったらいいって。






 思った。

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