鴉 147

「いやぁ、しかし、天ちゃんは嬉しいよ〜」






 テーブル。






 ホットプレートでお昼ご飯のお好み焼きを焼きながら天狗がご機嫌だ。






 俺と光はいつもの席で、それが焼き上がるのを待ってた。



 カラスは光の椅子の背もたれ、ひとつ目はネコマタとどっかに行った。気狐は光の向こう側の床で丸くなってる。






 つまり通常。とりあえず通常。






 天狗思いつきの面談ってやつは、どうやら無事終了したらしい。






 って言っても、さほど話は進んでない。



 今後の光の選択肢から、血桜を使って時間を戻すっていうのが消去された。それだけ。






 あとはその。



 だからその。






「何が?」






 じゅーじゅーってお好み焼きが焼ける音。換気扇の音。



 それにまじって光の質問。



 ぐふふふって天狗の変な笑い。







 もう、イヤな予感しかしない。






「かわいいかわいい鴉とかわいいかわいいぴかるんがめでたく両想い♡もう、天ちゃんそれだけで白飯5杯は食べれる気がする〜。あ、夜は赤飯炊く?それともケーキ作ろうか?」

「ちょっと天ちゃん‼︎」

「………」

「ん〜?なあに〜?ぴかるん。もしかして両方がいい〜?」

「………普通のご飯でいいです」

「………」

「ええ〜?遠慮しなくていいよ〜?めでたいことなんだから〜。ね?鴉」

「………」






 どうしていいのか分からなくて、ずっと黙ってたのに、それがダメだったのか天狗に話をふられた。






 だからちょっと。



 どうしていいか分からないからやめろ。俺にふるな。






 って気持ちを込めて天狗を見るけど、天狗はお好み焼きを『あらよっと』って掛け声と同時にひっくり返してて、俺が見てることにまったく気づいてない。






 チラッて光を見たら、気づいた光が俺をチラッて見て、すぐそらされた。






 ………気まずいというか、何というか。






 別に。



 光にどうこうしようとか。光をどうこうしようとか。そういうのは何もない。本当に。



 だから天狗。変に意識させるのはやめろ。どうしていいか余計に分からなくなる。






 普通でいいんだ。このままがこんな感じで続けばそれで。






 光は俺が拾った小さいの。



 俺が大事に面倒を見てく小さいの。






 俺の世界に居てくれるなら、俺はそれだけでもう十分。






 よし焼けたって。



 天狗は並べて焼いた2枚のお好み焼きを、俺と光の皿に乗せた。






「さあ、お食べ」

「ありがとう。いただきます」

「いただきます」






 天狗が新たに2枚分の生地をホットプレートに流し込んでるのを前に、俺と光は手を合わせた。






 こういう普通。






 一緒に居るって、それさえ、それだけですごいことだと、俺は思ってる。






 一緒に居るって、時間を共にするって、それもまた命。命を与え合うこと。だから。






 一緒に居て欲しいということは、その命を俺に使って欲しいということ。



 一緒に居てくれるってことは、その命を使ってくれるということ。






 それをする以上にすごいことなんか。






 ふふ。






 天狗が、じゅーじゅー焼けるお好み焼きの音の向こう側で笑った。






「天ちゃん?」

「これねぇ、ぴかるんに見せられたらいいのに」

「これって?」

「鴉が今ね、すんごいぴっかぴかに輝いてる」

「え?」

「………?」






 俺が?






 言われて思わず自分の手とかを見てみたけど、別に何も。






 って、見せられたらって言うぐらいだから、普通には見えないのか。



『天狗の目』でしか。






「鴉が今、すっごいすっごい幸せって思ってるってことだよ。………ありがとね、ぴかるん」

「………」

「………」






 もう、黙るしかできない、それは声。



 果てしなく優しい、優しい声。






 すっごいすっごい、幸せ。か。






 幸せの意味は、俺にはよく分からないけど。






 隣に居る光にありがとうって、俺も、すごい思った。

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