鴉 146

「………カラス」






 両想いって何だ?ってのに気を取られてて、いつもなら避けられただろうカラスの体当たりをもろに食らった。しかも顔に。






 ばさばさってテーブルにおりたカラスの小さい身体を、反射的に両手でつかんだ。



 持ち上げて顔を突き合わせた。






 いくらカラスが賢い動物だからって、その中でもカラスはさらに賢いからって、俺たち3人の話が通じてるとはさすがに思わない。






 クワって小さく鳴きながら、カラスがじたばたしてる。






 通じてはいないけど、何かは伝わってる。



 だからの体当たり。






 嫉妬か。



 そうか。嫉妬か。






 まあ、光を見つけたのも、光を拾うって言ったのも、お前だからな。






 とは思ってやるけど、体当たりはダメだ。






 どうしてくれようか、こいつ。






「だって、ぴかるんイヤでしょ?鴉が女の子と手繋いでデートするの見るの」

「………鴉、が?」

「そう。鴉もね。ぴかるんが女の子と手繋いだりハグしてるの見て平気?」

「………」






 俺とカラスはスルーで、天狗が言う。言ってる。言った。






 光が、女と?






 瞬時に思った。即だ。一瞬。秒殺どころか瞬殺。絶対イヤだ。見たくない。見たくないっていうかそんなの許さない。邪魔してやる。引き裂く。






 どんどん出てくる思いに自分で驚く。何だこれ。






 驚いてカラスをつかまえてる手がゆるんだらしく、カラスはじたばた暴れてばさばさって逃げた。光の方へ。






 俺は、と言えば、天狗が言った光と女の子がっていうのがイヤすぎて鳥肌まで立ってた。






 イヤだ。聞くのもイヤだ。やめろ。そんなこと考えさせるな。誰もそんな風に光に触るな。






 思わず天狗を見た。






 鴉その顔こわいって言われた。






「ね?平気じゃないでしょ?イヤでしょ?ふたりとも。もやもやするよね?」






 ふたりとも。



 ってことは。






 光も?






 光を見たら、びっくりしたみたいな顔で俺を見てた。



 思いっきり目が合った。



 そして思いっきりそらされた。






 何でだ。






「ちなみにオレはどっちも平気っ。むしろわくわくする〜」

「………」

「………」

「つまりそれって少なからず恋愛の意味を持ってお互いを見てるってことじゃない?でもさ、ぴかるんはぴかるんで事情があって、鴉は鴉でぴかるんに対してそれだけじゃなく、色んな感情があるんだよね。鴉にとってぴかるんとの出会いって、未知との遭遇だから。だから別にさ、これは恋愛だ‼︎恋愛だから◯◯をすべし‼︎みたいなのは完全無視して、お互いが心地いい関係で距離でいたらいいんじゃないの?鴉は絶対、ぴかるんのイヤがることなんてしないよ?親であるオレが保証する。もし鴉がぴかるんを泣かせるようなことしたら、オレが責任を持って鴉を成層圏か地球の裏側までぶっ飛ばして、オレは腹を切ってぴかるんにお詫びするよ?」

「………」

「………」






 ぺらぺらと。



 ぺらぺらと。






 次から次の天狗の言葉に、俺はまったくついていけてなかった。






 呆然。



 ただただ呆然。






 言葉が耳から耳を通り抜ける。






 恋しちゃった?とは、聞かれてた。



 俺にはそういう経験がゼロだから、聞かれても全然感情をこれって分けることはできない。






 光は天狗と違う。特別。それ以外には。






「ってことで、時間を戻すって選択肢は、言っといて何だけどもオレの独断と偏見で抜いちゃうから、よろしくね〜?ぴかるん。オレはかわいい愛しい息子のためなら、モンスターな親になるって決めてるからっ」

「………天ちゃん」

「それに、それぐらい強引なことしないと、ぴかるんは矢とヘドロで死んじゃうどころか、存在ごと消える。オレはね、こう見えてぴかるんのこともとっても大事に思ってるんだからねっ」

「………天ちゃん」






 俺の頭はガチって止まったままだったけど。



 時間を戻すって選択肢は天狗が抜く。なしにする。






 それだけは分かって。



 それに光がぼろって涙を流したのが分かった。






 はあああああって一気に脱力。






「………光と居たい。………本当に俺は、それだけでいい」






 本当に。本当に。



 願うのはただそれだけ。






 光と居るのが、俺はいい。






 うんって光が、小さく頷いた。

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