光 143

「ぴかるん目ぇ覚めた?」






 カフェオレを飲んでたら、前に座ってる天ちゃんに聞かれた。






 いつもと違う並びで改まって感がすごい。



 目なんて覚めるに決まってる。






「うん、覚めたよ」

「大丈夫?」






 大丈夫?って何がだろう。



 本当に目が覚めてるかってこと?それとも僕の体調的なこと?






「………何に大丈夫って聞かれてるのか分かんないけど、大丈夫」

「分かんないって言いながら答えるぴかるんがナイスだよね〜」






 天ちゃんはひゃははって笑って、さらに不思議な発言をした。






「大丈夫なら、じゃあ面談スタートしよっか」

「へ?面談?」

「そ、面談」






 面談、なんて。



 まさか学校以外のとこで、こんな山奥で、面談なんて言葉が出てくるなんて思わなくて、どういうこと?って僕は目で鴉に助けを求めた。



 でも、どういうこと?は、僕だけじゃなくて鴉もだったらしい。






 大丈夫だ、光。俺にもよく分からんって、鴉がすごく真面目にそう言った。



 だから、そっか。じゃあ大丈夫かって安心。






 天ちゃんはちょっと‼︎何かふたりともひどくない⁉︎って言ってるけど。






「ひどくない」

「ひどくないよ?」






 全然ひどくなんか。






「ハモってるし‼︎」






 天ちゃんは大袈裟にうううってテーブルに突っ伏して泣き真似をした。






 何が?って聞かれると困るけど、だからそういうとこだよって天ちゃんに思いつつ、僕は面談って何?って色々スルーで聞いた。



 鴉も色々スルーでコーヒーこぼれるってマグカップを退けてる。






 天ちゃんもスルー慣れしてて、がばって起きて気持ち悪いぐらい作り笑い感満載な満面の笑み。






 これってきっと。






「うん、まあはっきり言っちゃうと、ぴかるんの今後のことだよね」

「………っ」

「………」






 ほら。『きっと』って思った予感は大当たり。



 僕があんまりしたくない話。考えたくない話。でも、ちゃんとしなきゃな話。






「鴉もぴかるんのために勉強してくって言ってるし、ちょうどいい機会じゃん?そろそろ色々はっきりさせてこ?」

「………」

「………」






 色々、はっきり。






 鴉のことも含めて僕はまだきちんと答えを出せてない。



 だから何も言えなくて、黙ってテーブルに視線を落としてたら、天ちゃんの技が出た。






 おちゃらけてない声で、ぴかるんじゃなくて、光呼び。






 自然に身体が強張った。



 いよいよ答えを出さなきゃいけない時が来たんだって。






「もう一回確認する。大事なことだ。………これからどうするか。まず、の選択肢はオレは3つだと思ってる。時間を戻して全部のやり直しをするか、矢が抜けたら山をおりるか、このままずっとここに居るか」

「………っ」

「………ここに」






 僕の選択肢は2つだった。



 山をおりるか時間を戻すか。






 でも。



 天ちゃんがくれた選択肢は、3つ。



 ずっとここに居るか。も。






 あるの?そんな選択肢が。



 考えたこともなかった。ううん、考えないようにしてた。それは考えちゃいけないと思ってた。






 だって、もう十分すぎるぐらいお世話になってるんだから。



 無関係なんだよ?たまたま拾ってくれただけだよ?なのにここまでしてもらってて、さらに居続ける選択なんて。






「ちょっと〜ふたりして固まんないでよ〜」






 言ったのが天ちゃんだったから、え?って向かいの鴉を見たら、鴉はテーブルの上で両手をぐーにして、ものすごいかちかちに固まってた。






 その顔が。






 ものすごい悲しそうに見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る