鴉 143
天狗に話した。
気狐に連れて行かれた光の夢の中で見たもの。
見て思ったこと。
かなり気持ち悪いねぇって天狗は言った。そんな夢なんだって、光を見て。
「何の意味があるんだ?あの夢に」
「うーん、何だろね〜。夢占いみたいなので調べれば何かしら解釈の仕方が出てくるのかもだけど、そういうのって大衆向けのものであって絶対的な答えじゃないと思うんだよね」
「………」
「お母さんのたくさんの口かあ………。鴉的に何かないの?一般大衆向けのそういうのより、ぴかるんと一緒に居る鴉の方がナイス解釈できるかもじゃん?」
俺が天狗に聞いたのに、逆に聞かれて。考える。
いくら一緒に居るって言っても、いや確かに居るけど、そこまでじゃない。色々話すんでもない。一緒に居るだけ。空気みたいに。
ただ。
「光が言いたいのかな、とは、思った」
「ぴかるんが言いたい?」
「母親に………だけじゃないかもだけど、主に母親に。何でって。口が無数に出るぐらいたくさん、何でって思ってて、言いたいのかって」
親がある日突然自ら命を絶ったら、そう思うだろ。
それを光は、誰にもぶつけることができずにいるのかもしれない。
実際ぶつける相手はもう居なくて、父親もろくに居ないんじゃ。
俺の言葉に、珍しく天狗が黙った。
そんなの本当に珍しくて、俺変なこと言ったか?ってちょっと焦った。
長い沈黙。
の、後。
天狗はガクって項垂れて、鴉が言うならそんな気もするけど難しくて分かんな〜いってぼやいた。
俺の方がガクってなった。
「分かんないから、面談しよ?」
「………面談?」
「そ。面談面談っ」
いつもの軽いノリで天狗は言って立ち上がって、やろやろ〜ってそのまま居間を出て行った。
「………」
残された俺。
「………面談って何だ?」
答えてくれる誰かは、誰も居なかった。
それからの、今。台所。
何故か天狗にこっちに座るよう言われて、俺はいつも座るところじゃない天狗の横。光の前に座ってる。
それぞれの前にはコーヒーとカフェオレ。
天狗に言われていれた。
いれて、ぴかるんそろそろ起こしてって言われて起こして座って。
ああ、こうやって面を合わせて談じるのを面談って言うのか。
………って、何を談じるんだ?
よく分からない天狗がやることはよく分からない。
光がちょっとびびってるような気がするのは気のせいか。
「ぴかるん目ぇ覚めた?」
「うん、覚めたよ」
「大丈夫?」
「………何に大丈夫って聞かれてるのか分かんないけど、大丈夫」
「分かんないって言いながら答えるぴかるんがナイスだよね〜。大丈夫なら、じゃあ面談スタートしよっか」
「へ?面談?」
「そ、面談」
光は不思議そうにニコニコしてる天狗を見て、俺を見て、不思議そうに首を傾げた。
「大丈夫だ、光。俺にもよく分からん」
「そっか。じゃあ大丈夫か」
「ちょっと‼︎何かふたりともひどくない⁉︎」
「ひどくない」
「ひどくないよ?」
「ハモってるし‼︎」
うううってテーブルに突っ伏して泣き真似をした天狗に、面談って何?って光。コーヒーこぼれるって俺。
天狗はそれにすぐガバって起き上がってにかって笑った。
そして
「うん、まあはっきり言っちゃうと、ぴかるんの今後のことだよね」
「………っ」
「………」
「鴉もぴかるんのために勉強してくって言ってるし、ちょうどいい機会じゃん?そろそろ色々はっきりさせてこ?」
「………」
「………」
何をもっても『ちょうどいい機会』なのか。
昨夜の光と光の夢か。
俺はそこにちょっと疑問で、光は光で、俺が光のために勉強、のとこで、光が分かりやすく俯いた。
俺と天狗の会話を聞いて、もうそれは光も知ってること。
何ができるのか、光がそれをどう受け止めてどう思うのか。光が望んでることは?
確かに天狗の言う通り、そろそろはっきりさせて行かないとダメなのかもしれない。
はっきりさせた方が、光のあの気持ち悪い夢も。もしかしたら。
「光」
俯いた光に、天狗の声。真面目な。
光の肩が、ぴくんって動いた。
「もう一回確認する。大事なことだ。………これからどうするか。まず、の選択肢はオレは3つだと思ってる。時間を戻して全部のやり直しをするか、矢が抜けたら山をおりるか、このままずっとここに居るか」
「………っ」
「………ここに」
俺と光で反応が別れた。
光には、ずっとここに居るって選択肢がなかったらしく、そこに反応した。
けど俺は。
時間を、戻して。に。
一瞬思考が飛んだ。
頭の中が空間。真っ白な。何なら目の前の、見てる映像も飛んだ。真っ白に。でも。
そうか。
それができるのか。
完全なる失念。
今の今まで忘れてた。そうだ。こないだ鬼の山で見た、血桜があれば。
病弱だった人である雪也の病気を治し、なおかつその存在を人から鬼に変えた血桜。
それが本当なら、時間を戻すことぐらい。
それが本当だから、時間を戻すことぐらい。
俺がいくら光に何かって思っても、光がそれを選んだら。
がつんって後頭部をぶつけたみたいな衝撃だった。
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